とある白姫の誕生秘話──吐露4

──もしかして…カークラド君?

それはバカンス直前の日にあった打ち合わせの帰り道のことだった。
隣には上司のエリザ。

彼を先に見つけたのは当然彼女だった。

入社して4ヶ月弱もたつとさすがにモブ太郎もわかってくる。
彼女は男女問わず可愛い子が大好きで、さらに言うなら、特に男同士の恋愛の話が大好きだ。

今の彼女の一番のお気に入りは何を隠そう面接の時にモブ太郎を助けてくれたアーサー・カークランドで、わかりやすく彼を気に入ってスカウトして可愛がっている上司のギルベルト・バイルシュミット課長補佐とくっついてくれることを、日々望んで妄想している。

そんな彼女だから、どことなく元気のない様子で夕方の公園のブランコに座り込んでいるアーサーを見逃すなんてことはありえない。

それでもいきなり別部署の上司の自分が声をかけるよりは同僚のほうが良かろうということまで気が回るあたりが、彼女がただのテンションが高いだけの腐女子とは違うところだ。



「モブ太郎、バカンス前の最後の仕事よ」
と、彼女は少し離れた植え込みに身を隠しつつ、鋭い視線をモブ太郎に向けた。

おそらく仕事といっても会社の仕事とは直接的には関係がない。
だが、彼女のこういう趣味が会社に莫大な利益をもたらしている彼女の人脈を作っている部分がたぶんにあるので、拒否権はない。

「はいはい。カークランド君に事情を聞いてくればいいんですよね?
わかったらどうします?」

モブ太郎もさすがに慣れてきていて、諦め半分そう上司の美女にお伺いを立てると、彼女は

「あんたもホント成長したわよね。
そういう察しのいいところは慣れもあるけど、才能ね。
モブはモブでも一流のモブだと思うわよ」

と、褒めているのか落としているのか微妙なところだが、おそらく褒めてくれているのだろう。
満足げにそう言って頷いた。


まあ見つけたのは上司でその命令ではあるのだが、モブ太郎自身もどことなく元気のないアーサーをみかければ、声をかけたいという気持ちがないでもない。

なにしろ彼は恩人だ。

あの面接の日、彼が手を差し伸べてくれなければ、モブ太郎は社会人にあるまじきボロボロになった服装で面接に臨む勇気も持てず、自宅に逃げ帰ってた可能性もあるし、よしんば気力だけで面接を受けたにしても、あのひどい格好では落とされていただろう。

その後、新人研修で話をした彼はやっぱりあの日のまま天使のように優しげな青年だった。

まあ彼にはワールド商事最強と噂される優秀な上司がついているのだから自分なんかに相談するようなことはないかもしれないが、それでも少しでも力になれることがあれば…と、心から思って、モブ太郎はエリザから離れてその小さな公園に足を踏み入れると、そのブランコで揺れる細い影に思い切って声をかけたのだった。



Before <<<      >>> Next (4月7日0時公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿