とある白姫の誕生秘話──自覚と決意2

──1人で帰らせたぁあーー?!!!

自分の手で大切に大切に育てている新人、愛息子ことアーサーを1人残して、営業部に借り出されて他社訪問。

急いで帰るつもりだったのだが意外に話が長引いて、ギルベルトが帰社できたのは3時過ぎだった。

一刻も早く顔を見たい…そう思って急いで駆け込む自部署のフロア。
だが、自分の席の隣のアーサーの席には誰もいない。

え?と驚いて自分の席を挟んで隣のデスクに座る課長の本田に視線を向けると、本田は申し訳なさそうに、アーサーが早退をしたい旨を申し出たので許可したことを伝えて来た。

「早退っ?!体調悪そうだったか?!
それとも俺様がいない間に何か変わった事でもあったのか?!」
と問えば、昼休みの出来事について報告をされる。

女性陣に囲まれた…それだけで顔色を変えるギルベルトだが、本田は

「でもアーサー君、なんだか愛らしいので、女性達もリトルプリンスとか好意的な感じではしゃいでいらっしゃいましたし、悪意を向けられたとかはありませんでしたよ?」

と、ギルベルトが一番心配しているであろうあたりは否定する。

しかし、それではなぜ?というとわからない。

元々人の機微には敏感な人間だと思っていたが、その本田にわからないとなると、なんなのだろうか…。

とにかくどちらにしても、気真面目なアーサーが仕事を続けられないレベルの状態の時に1人で帰すというのが、ギルベルト的にはあり得ないと思う。

思いがけず大きくなった声に委縮した本田に、余計に苛立つが、自分が望むレベルのフォローをいれる能力が結果的になかった相手に頼んだ自分が一番悪い。

「俺様も早退にしておいてくれ。家に帰る」

これ以上ここにいたら八つ当たりをしてしまいそうなので、ギルベルトは帰って来た時のまま、席にも付かず鞄を持ったまま踵を返した。

そうして会社を出ると、即タクシーを拾って自宅へ。



タクシーを降りると逸る気持ちを抑えていったんドアの前で深呼吸。
感情的になって慌てても良い事はない。

冷静に…なるべく冷静に話をきいてやらなくては……


家に入るとまずリビングを確認。
ここにいなければ自室だろうと、アーサーの部屋のドアをノックするが返事がない。

そこで迷うが、中で倒れていたりしても大変だからと心の中で言い訳をしながら、ドアノブに手をかけた。

鍵がかかっていたなら、上記の理由で本来ならマナー違反ではあるが、マスターキーを使うしかないと思っていたが、幸いにして鍵はかかっていないことにホッとする。


「アルト、入るぞ?」
と、ドアを開けると、カーテンを閉め切って灯りがついていない部屋は夕方前と言えど薄暗い。

それでも室内は見通せるので、デスクに放り出してある上着をハンガーにかけてやると、おそらくいるのであろうロフトベッドを見あげた。

「アルト?」
と、声をかけても返事がないため、階段を上がり、ベッドを覗き込むと、ティディベアをしっかり抱きしめて顔に涙の跡を残しながら眠っているアーサー。

幼さ全開のその様子に憐憫だったり庇護欲だったり怒りだったり愛おしさだったりと、様々な感情が駆け巡る。

「…アルト…なんで泣いてんだよ……」
と、聞こえていないのを承知で小さく囁いて頭を撫でてやると、いつものようにふにゃりと笑みを浮かべて手に擦り寄ってくる。

…可愛い……
全身全霊で守ってやらなければ…と、いつものことだがそんな気持ちがまた沸き起こってくる。

「…大丈夫…俺様が守ってやるからな?
お前はなんにも心配しないでいい」
と、誰かに言ったのは随分昔…親を失くして泣き寝入りしてしまった幼いルートに言った時以来だ。

とりあえず急いでどうこうしないとならないほど体調が悪いわけではなさそうなので、起こすのも可哀想だしと、そのまま頭を撫でていると、金色のまつげがふるりと揺れて、ゆっくり白い瞼が開いていった。

そして覗くのは朝露に濡れる新緑のような、潤んだ淡いグリーンの瞳。

「グーテンモルゲン、アルト。
…まあ、まだ夕方だけどな」

と、小さく微笑みかけながら静かに声をかけると、意識がはっきりしないようにぼ~っとしていた丸い眼が大きく見開かれた。


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