とある白姫の誕生秘話──吐露1

どうしよう…と、アーサーは思う。

本当に…自分は課長補佐の人の良さを舐めすぎていた。
よもや勝手にネットゲームをやめたアリアを未だに心配してくれているなんて思ってもみなかったのだ。
しかもそんな不義理をしたのに、ひょっこり戻ったら必要とされているなら手を差し伸べてくれるつもりでいるなんて、ありえない人の良さだ。

もう申し訳なさしかない。
どうしよう…どうするべきなんだ?

課長補佐のためを思うなら、本当はアリアは自分で、心配する必要などないと言う事を伝えるのが一番なのだろうが、状況はネカマがバレると心配していた頃よりまだ悪い。

相手が課長補佐だと知っていて正体を隠していて、さらに不義理をしていたなんて知れたら…さすがに怒るだろうし、呆れかえるだろう。

それでも…黙っていていいんだろうか……

すでにかなりの期間、課長補佐はアリアを心配して様子を知るために時間を使っている。
たぶん21時に自室に戻るのは、アリアでインしていた頃に、いつも一緒に遊んでいた時間だからだ。
自分がいわなければ、課長補佐は今日も明日も…一カ月後も一年後も、アリアを心配して待ち続けるのだろう。

毎日毎日、21時から0時までの3時間。
決して暇な人ではない。
それだけの時間があれば色々有意義な事もできる。
なのにこれから先ずっと時間を無駄にさせるのか?

そんなことさせられるわけがない…と、アーサーは思うものの、ではどうすればやめさせられると考えた時に、自分がカミングアウトする以外の方法を思いつけない。

そうなると…当然同居は解消。
それどころか会社にも居にくくなるかもしれない。

入社3カ月。
転職するには早すぎる。
あまり良い転職先は望めないだろう。
もちろんワールド商事以上の会社なんて絶対に無理だ。

それでも転職するとなると……時間が欲しい。
もうすぐバカンスの時期になるので、チャンスはその時か。

退職はバカンス後にすれば、バカンスの間は課長補佐と顔を合わせる事はないので、安いアパートでもさがせれば、生活はなんとか維持できる。


そう…維持するだけなら…生きて行くだけなら……
でも、この幸せな生活はもう二度と戻ってはこない。

朝…目覚ましをかける必要もなく、起こしてくれる少しかすれた特徴のある声。
温かい食事。
一緒に会社に行って、隣で時折りちょっとした雑談や気遣いの言葉をかけられながらの仕事。
帰りもやっぱり一緒に帰って、自分のために作られた手作りの夕食。
その後、ホットミルクかミルクティを飲みながらとりとめのない会話をして過ごす日々…

そんな日常は失われて、会社と家の往復。
1人きりのアパートでコンビニの弁当を温めてそれを食べて寝て起きて仕事に行く…
大学時代のような生活に逆戻りだ。

ずっとそうして生きて来たのだ。
出来ないはずはない……

なのに……涙があふれて止まらないのは何故だろう……

シクシクと痛む胃のせいかもしれない…

その痛みは何故か胸元から感じる気がするのだが、きっと気のせいだ…



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