kmt 生贄sbg
庭である…そんな認識も吹き飛んでしまうくらいに、義勇の目にはそこはまるで外のように木々が生い茂る広い空間だった。 もちろんその木は綺麗に秩序を持って植えられていたものではあったのだが、生まれてこの方部屋から出た事がほぼない義勇にそんな違いが分かるわけはない。
…寒い…喉も痛い…ついでに身体の節々が痛む… 目を覚ました時に感じたのはそんな不快感だった。
細い…小さい…脆い…… ………… ………… ………… 怖い…怖くて、怖くて……… 壊しそうなのが怖くて仕方がない…… 岸にたどり着いた時に止まっていた呼吸はなんとか再開した。 弱々しい呼吸と鼓動。 ちょっとした刺激で壊れてしまいそうな脆さ…… 守りたいのだ。 守ろうと思うのに、ま...
バシャーン!!と派手な水しぶきをあげて海へと落ちた錆兎は、その衝撃に一瞬顔をしかめるが、すぐに目を見開いて必死に白い姿を追い求めた。
…え? 驚くべき速さで走り去る少年。 ついさっきまで打ち解けていたように思ったのに何故?? と、炭治郎は唖然とそれを見送って、次の瞬間ハッとする。 まずい!逃げられたっ!!つかまえなくてはっ!!! そう気づいた時には少年は遥か遠くまで逃げてしまっている。 弱々しい感じなのに逃げ脚...
「気遣いが足りなくてすみませんでした…」 2人して目と鼻の頭が真っ赤になるほど泣いた後、先に泣き止んだ炭治郎はそう謝罪した。 そして手にしたハンカチで義勇の目元を拭いてやる。
びっくり眼。 小さな悲鳴。 自分の姿を見て身をすくめて狭い場所なのでギリギリ後ずさられる。
それはまるでお伽噺のような光景だった。 小さな薔薇の家。 周りには不思議な事にキラキラとした光が舞っている。
「寒いな…早く見つけないと……」 まだ午前中で陽はあるものの、大陸の中でも北のほうに位置する水の国は春先や秋口でも冷える。 高熱ではなくなったものの微熱もある少年の体調が悪化しないよう、早急に保護しなければならない。
「錆兎っ!!逃げたっ!!逃げちゃったのっ!!捕まえてっ!!!」 いきなり部屋のドアが開いて焦った顔の真菰が飛び込んできた。 「「逃げたって、何がっ?!!」」 と、驚いた錆兎と炭治郎の声がはもる。
熱がなかなか引かず、早1週間。 体調が回復するまではなるべく側についているつもりだったのだが、錆兎も一国の王なので、さすがにそれにも限界が来る。 朝食を一緒に取って薬を飲ませてウトウトと眠ったところでソッとその側を離れて執務室へと急いだ。
錆兎の大切な被保護者が目を覚ましたのは、翌日の明け方だった。 発見したのが前日の午後で錆兎はそれから傍らに付き添って、日が落ちてまた登るのを横目に濡れタオルをかえてやりながら、汗を拭いてやっている。 王と言っても割合と自分で動きたい性質の錆兎だが、あいにくというか幸いと言うか、周...
冷え切った体…青い顔…… ベッドに寝かせてやった方が体勢的には楽なのかもしれないが、冷え切っているので体温を少しでも分け与えてやりたい。 結果、ベッドで半身起こす形で抱きしめる。
幻の国に使いを送ったところで、もう打てる手は打ったことになる。 今までの経験上、返答が来るまで1週間から10日ほど。 協力を依頼したからには、それまでは動くわけにはいかない。
元々嵐の国がかなり攻撃的な国であること、使者の件、炭治郎の件で杏寿郎はかなり戦う方に傾いてきている。
「おかえり! 余裕で間に合ったようだな。 まあ君のことだから心配はしていなかったが…」
やがてドアがノックされ、どうやらリビングの方からメイドらしき声に昼食の用意が出来た事を告げられるが、とてもではないが寒くてベッドから出る事が出来ない。 なのであとで食べるので置いておいて欲しいとベッドの中から告げると、あとで食器を取りにくる旨を告げて下がって行く。 その気配を感じ...
「着替えはどうされますか? 手伝いが必要なら俺がお手伝いさせて頂きますし、ご自身での方が良いということなら俺は退室しておきます」 と言われて、義勇は自分で…と答える。
そうして着いた部屋。 海に面した側は広い窓があって光いっぱいで、綺麗な青い絨毯が敷き詰められた廊下に並んだドアの中の一つの前で少年は止まった。 これもやはり友好国の王から頼まれた客人という位置づけのせいなのだろうか。 ドアを開けて入ったのは、義勇が見たこともないくらい綺麗で素敵な...
水の国はその名に違わず大海に面して建っていて、庭に面した渡り廊下を歩けば風に乗ってわずかに潮の香りが漂ってくる。