生贄の祈り_ver.SBG_26_脱走

「錆兎っ!!逃げたっ!!逃げちゃったのっ!!捕まえてっ!!!」
いきなり部屋のドアが開いて焦った顔の真菰が飛び込んできた。

「「逃げたって、何がっ?!!」」
と、驚いた錆兎と炭治郎の声がはもる。


(さすが師弟。似てないようで変なところで似てるわね…)
と、そんな感想を持ちつつ真菰は彼女にしては珍しく少し固まったが、全くそんな事に気づいていない本人達は

「「真菰(さん)っ!!」」
と、やっぱり揃って先を促した。

ああ、そうだった。
こんな事を考えている場合ではなかった。
そこで我に返って真菰は言った。

「子猫ちゃんがね、逃げちゃったのよ」



ことのおこりは30分ほど前。
たまたま目を覚ましたのだろう。
義勇は普段はそこにいるはずの錆兎が居ない事に気づいて、不思議に思ったのか、そろりとベッドを抜け出して寝室を出るが、リビングにもいない。

当然だ。
その頃には錆兎は執務室で仕事をしていた。

そこでさらに他の部屋を探して、最終的に向かうのは廊下に出る扉。

初日にこそ鍵がかかっていたそのドアは、その後は鍵はかけられる事はなく開いていた。
それが災いした。

ソロリとドアを開けてみておそるおそる部屋の外、廊下を窺う義勇をたまたまみつけたのは護衛兵で、

「何をしておいでですか?」
と、声をかけた。

他意はない。
本当に単純に何か探しているのか、人を呼びたいのか、何をしたいのかを聞こうと声をかけただけなのだが、城外と比べてはるかに軽装ではあるものの、武装した兵士に声をかけられた事に驚いてしまったらしい。

ぴゃっ!とばかりに大きな目を限界まで大きく見開いて飛びあがり、次の瞬間、ものすごい速さで、これも運悪く眼前に広がっていた中庭──と言っても、東西南北の宮で囲まれてかなり広い──に飛び込んでしまったらしい。

なまじあれこれ木々が植えられているだけに、その姿は兵士が呆然としている間にどこかへ消えてしまったとのことだ。

「っとに!人慣れない子猫そのものだなっ!!」
と、叫びながら、錆兎は無造作に椅子の背にかけていた上着を手に駆けだしかけて、ふと思い出したように、炭治郎を振りかえって言う。

「炭治郎、お前も手伝えっ!」
「わかりましたっ!!」
と、炭治郎もその後ろに付き従って、執務室を飛び出した。








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