生贄の祈り_ver.SBG_25_落ち込む少年

熱がなかなか引かず、早1週間。

体調が回復するまではなるべく側についているつもりだったのだが、錆兎も一国の王なので、さすがにそれにも限界が来る。

朝食を一緒に取って薬を飲ませてウトウトと眠ったところでソッとその側を離れて執務室へと急いだ。

いつもだとこれから2時間くらいは眠っている。
だから、その間にたまっている仕事を片付けてしまわねば…。

陳情書も溜まっているし、面会希望者も待たせている。
本来なら謁見室で謁見するところを、執務室で書類を片付けながらの謁見。

最初は片手間できちんと聞いているのかと、相手が国王と言う事で言葉にこそださないものの、若干不満げだった相手も、要望や報告を聞き終わると書類から目を離さずに、それでも適切な応答をする錆兎に、驚いたように平伏して下がっていった。

こうしてとにかく数をこなす。
ここでこなさねば、どんどん溜まっていく。

普段なら滅ぼされた国を再建出来た時のためにと練習がてら炭治郎を同席させて炭治郎にも話を振ってみたりするのだが、今回はそれもなし。
スピード優先だ。
もちろん、物理的には手を抜かずにという前提だが。

はるか異国では10人の人間が一度に言った言葉を聞きとる偉人の逸話などがあるが、そこまではいかないまでも、錆兎は2つくらいの案件なら集中すれば理解しこなせる。

普段はそんな必要もないのでしないが、今回はそうやって2方向の仕事をこなす王の能力に、家臣はもちろん、客人であり今では弟分のような存在の炭治郎もあらためてそのすごさを再認識する事になった。

そうして仕事をこなし続けてどのくらいたっただろうか…。

部屋の外の騒がしさに、錆兎は初めて書類から目を放して顔をあげた。

「騒々しいな。何かあったのか?」
若干不機嫌にちらりと隣に立つ幼馴染で腹心の従姉妹真菰に視線を送ると、さすがに長い付き合いだけに全てを言わせずとも要求を察したようだ。

「確認して来るわね」
とだけ言うと、廊下へと駆けだして行った。

その間は面会は中断。
書類に走らせるペンの音だけが響く中、

「陛下…」
と、炭治郎が口を開いた。

「ん?」

カリカリとペンの音に混じって、大きくはないが通る声で応える錆兎に、炭治郎は眉尻をさげて頭をさげた。

「すみません。ずっと謝罪がしたかったんです。
せっかく任せてくれたのに、義勇さんが体調を崩したことに全然気が付かなくて…」

義勇がこの国に来てからほぼ付きっきりだったので、なかなか話す機会がなかった弟分の言葉。
非常に真剣なその様子に、錆兎は小さく息を吐きだしてペンを置いた。

その上でくしゃりと頭に手をやって、少し考え込む。
そして錆兎は細心の注意を払って言葉を探した。

「あ~…あれは元々は俺のミスだ。
自分と違って体力がないって事をきちんと念頭にいれて小雨が降った中を強行しないで雨宿りしつつ移動していれば熱も出さなかった。
国境地帯を離れてからは急ぐ必要もなかったんだしな」

「でも…」

「だから…仲良くしてやれ。
年も近いし境遇も似たようなものだしな。
過ぎた事をいつまでも引きずっても無意味だろう?
失敗したら速やかな立て直しが最重要事項だ」

「……」
「返事は?」
「わかりましたっ!」

「よ~しっ!じゃ、今日は俺が改めてお前をきちんと紹介するから。
一緒に飯を食うぞ」

そう言って炭治郎の肩をポンと軽く叩いて錆兎が椅子から立ち上がった瞬間、執務室のドアがバン!!と開いて飛び込んできた真菰が珍しく焦った様子で叫んだ。

「錆兎っ!!逃げたっ!!逃げちゃったのっ!!捕まえてっ!!!」







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