生贄の祈り_ver.SBG_24_解ける誤解

錆兎の大切な被保護者が目を覚ましたのは、翌日の明け方だった。

発見したのが前日の午後で錆兎はそれから傍らに付き添って、日が落ちてまた登るのを横目に濡れタオルをかえてやりながら、汗を拭いてやっている。

王と言っても割合と自分で動きたい性質の錆兎だが、あいにくというか幸いと言うか、周りは丈夫だったため、こんな風に誰かの看病をするのなど、ほぼ経験がなく、やや新鮮な気分だ。


やがてピクリと長い漆黒のまつ毛が揺れた。
そしてゆっくりと白い瞼が開いて森の奥の泉のような色合いの澄み切ったブルーアイが現れる。
意識がまだはっきりしていないのか、ぽやぁっと錆兎を見あげてくる様子がなんとも愛らしい。

だが、そんな様子もほんのわずかの間で、ピタっと視線がしっかりと錆兎を認識するやいなや、目の前の子どもの顔が一瞬にして強張った。

熱でほんのりと赤くなっていた頬から一気に血の気が失せて真っ青になる。
錆兎は人間の顔がこんなに瞬時に変わるところを初めて見た。

カタカタと震える身体。

「おい、大丈夫か?寒いのか?」
と手を伸ばすと、ビクゥ!!とすくみあがって硬直された。

だいぶ慣れて心を許してくれていると思っていたから、その反応に錆兎は地味にショックを受けて自分も硬直する。

そして伸ばした手を引っ込めようとしたが、義勇の大きな目からポロリと零れた涙に、反射的にまた手を伸ばした。

「どうした?どこか痛いか?苦しいか?」
指先で零れる涙を拭いながら言うと、少年はやっぱりカタカタ震えながら小さな小さな声で、“ごめんなさい”を繰り返す。

「へ?何が?そこらの物を壊してしまったかなにかしたのか?
別にそれならそれで新しい物用意するから大丈夫だぞ?」

と言うと、義勇はさらにすくみあがってブンブン首を横に振った。

「違うっ!なにも壊してないっ!本当にっ!!」

フォローしたつもりが余計に怯えさせてしまったらしい。
やっぱり自分は義勇からすると怖いのだろうか…と、錆兎は少し落ち込んだ気分で途方にくれた。

「…ごめんな?怖がらせてごめん。
でも俺は本当にお前に危害加えようなんて思ってないし、ここで少しでも楽しく過ごしてもらえたらって心から思っているんだ。
なんか…俺のこと怖いか?
………
もし俺が側に居るのが怖いなら、別の使用人つけるが…。
女官の方が良いか?」

言っていて自分の方も悲しくなってくる。
肩を落とす錆兎に、何か落ち込んでいると言うのを感じとったらしい。

義勇はおそるおそる錆兎を見あげた。

「…迷惑…かけたから……怒ってないの?」
「は?迷惑って?」

ようやく普通に話してもらえた気がして少し浮上する。
…が、言っている意味がわからない。

怖がられたくない。
拒絶されたくない。
出来れば好かれたい。

その3つが脳内をグルグル回って、結局返事を待ち切れず

「えっとな…なんかわからんが…俺は別にお前に迷惑かけられた覚えはないし、一般的に迷惑と言われるような事でも、お前が俺に対して心を許して何か求めてくれたり頼ってくれたりすると、すごく嬉しいんだが……」
と、小さな頭をソッと撫でた。

まんまるく見開かれる目。
それからちょっと悩むように視線をそらせて…またおそるおそる錆兎を見あげてくる様子は本当に小動物だ。

「…あの……」
「…おう、」
「…いきなり熱…だしたから……」
「は?ああ、ごめんな、体調悪いの気づかなくて…。で?」
「…いや……熱出して…迷惑かけたから……」

互いに目を丸くして押し黙った。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

続く沈黙。

「もしかして迷惑って体調崩したとかか?!!」

正直周りが頑丈すぎて体調崩す人間が少なすぎて、そういう発想がなさすぎた。
驚いて見下ろす錆兎に、義勇はこっくりと頷く。

「…余計な手間暇かけたから……」

そう言われて錆兎はぶんぶんと思い切り首を横に振った。

「…っいわくじゃない!それは迷惑とは言わないからっ!!
むしろ何か辛かったり苦しかったりする事があったら、すぐ言ってくれ!
絶対にすぐ対応するからっ!」

そう、錆兎的には極々当たり前のことを言ったら、思い切りびっくりした顔をされた。








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