生贄の祈り_ver.SBG_23_発熱

冷え切った体…青い顔……

ベッドに寝かせてやった方が体勢的には楽なのかもしれないが、冷え切っているので体温を少しでも分け与えてやりたい。

結果、ベッドで半身起こす形で抱きしめる。


「…大丈夫。すぐ医者が来るからな?」

と、声をかけてやりながら、北に位置するためまだ春が遠く冷たい冬の匂いの移った小さな頭に顔をうずめると、意識はないようなので無意識なのだろう。
小さな手がぎゅっと錆兎の服の胸元をつかむ気配がした。

可愛い…だがその力は弱々しくてひどく不安にさせられる。
小動物の赤ん坊を拾った時のような、愛おしさと焦燥感。

「体調悪いの気づいてやれなくてゴメンな?」
と、ぎゅうっと抱きしめると、腕の中からクスン、クスンと小さく啜り泣く声がして、錆兎は色々な意味でいっぱいいっぱいになった。

それが例え杏寿郎の依頼だったとしても、救出に関わることに対しても、こうして自国で預かることに対しても自分には拒否権があった。
それでも今この子どもを手元に置いているのは、紛れもない錆兎自身の意志である。

それに対して、義勇自身はどうだろう。
いきなり拒否権もなく見知らぬ国へと連れて来られることになり、道中はいきなり襲撃を受け、着いたら着いたで体調の悪さを言いだす事もできずにいて、随分と心細い思いもしているはずだ。

立場的にこれは自分の方が気づかってやるべき案件である。
絶対に守ってやらねば!!と、決意を新たにしているうちに医師が到着。

「なるべく早急に苦痛を取り除いてやれる方向で頼む」
と、そこはプロに任せるべきだろうと、若干心を痛めつつもしがみつく手をソッと外してベッドに寝かせて、自分は一歩後ろに下がった。


炭治郎よりも1歳ばかり年上のはずだが、少し幼く見える子ども。
そう、広い額も大きな丸い目も、若干ふくらみを残す柔らかそうな頬も、まさに子どもそのものだ。

自分が親ならまだ自分の元から手放すのを躊躇してしまいそうなその幼げな風貌で苦しげな様子をしているのを見るにつけ、憐れさが増す。


結局…ここまでの旅による過労で身体が弱っていたところに、雨に濡れたりしたのが悪かったらしい。
危うく肺炎を起こすところだったとのことだ。

もちろんまだ起こしていないからと言って油断は出来ない。
高熱をだしているし、衰弱している事には変わりない。

錆兎も錆兎の周りの人間も、雨だろうが雪だろうが馬で戦場を駆けまわるのが普通だったので、このくらいで体調を崩してしまうものだとは思ってもみなかった。

(…ごめんな…。こんなに弱いと思わなかったんだ。
これからはちゃんと気をつけてやるからな…)

医師に見せたあと、そのままベッドに寝かせた少年の汗で額に張り付いた髪をそっとはらってやりながら、錆兎はそう心の中で謝罪しつつ肩を落とした。


透き通るような真っ白な肌が熱で薄い桃色に色づいている。

普段はぴょんぴょんと跳ねた漆黒の髪は今は汗でペットリと濡れていて、それが雨に濡れた仔猫のように頼りなげに見え、少しでも庇護欲というものを持ち合わせていれば、放っておけない、手を差し伸べて抱きしめて守ってやりたい、そんな気持ちを起こさせる雰囲気を漂わせていた。

もちろん、錆兎もそれを持ち合わせていないわけもなく、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚と共に、強烈に保護したい気持ちが溢れ出てくる。

大事に大事に、今度こそ絶対にこんな風に無理をさせて体調を崩させたりしないように…

とりあえず少し体調が回復して移動しても問題ないくらいになったなら、この他国の人間の滞在用の西の宮ではなく、自分の部屋のある東の宮に少年の部屋を用意させて住まわせようと、錆兎は人を呼んでその用意を申しつけた。









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