「寒いな…早く見つけないと……」
まだ午前中で陽はあるものの、大陸の中でも北のほうに位置する水の国は春先や秋口でも冷える。
高熱ではなくなったものの微熱もある少年の体調が悪化しないよう、早急に保護しなければならない。
「分かれて探すぞ」
という錆兎の指示に従って、北側に向かった錆兎と分かれて、炭治郎は南側に向かう。
一応城の中庭なのだが王が住む王城である以上、不測の事態も想定している。
なので城内と言えど、万が一に備えて色々な備えがあって、迷路のように植え込みが入り組んでいる中庭もその備えの一つだ。
だから知らない者が迷い込んでしまえば普通に迷子になる。
というか、衛兵でも新米なら余裕で迷う。
だから地図を携帯しているくらいだ。
炭治郎自身はと言うと、元王太子とはいうものの自国はわりあいと自由な国だったので、幼い頃から山で遊んだりしていたのもあって道を覚えるのは得意だし、ここにきてしばらくは気を使ってかなりの時間を共に過ごしてくれた錆兎に案内されて、運動がてら毎日この中庭を歩いているうちに道を覚えた。
とは言っても迷わずに行きたい場所に行けても今回は意味がない。
探し物は建物でも彫像でもないのだ。
行き止まりで行き倒れている可能性もあると思えば、全炭治郎をしらみつぶしに探すしかないのだが、そうしたところで相手がどんどん移動して行き違いになれば終わりだ。
歩き慣れた植え込みの迷路。
なのに今日は何故かざわざわと何か拒絶感を感じる。
別に拒絶する誰かがいるわけではない。
強いて言うなら、木々が炭治郎を阻んでいるような、そんな錯覚を覚えた。
──…疲れているのか……
と、そんな自分のありえない考えに炭治郎は片手を目頭にやって小さく首を横に振った。
それでも…と、思う。
「錆兎はああは言っていたが、やっぱり俺の責任だ。
絶対にあの少年を探しだして無事連れて帰ってやらなければ……」
と、それは誰にともなく呟いた言葉だ。
なのにその瞬間、風もないのにざわりと植え込みの木々が葉を揺らした。
そして…後ろからふわりと誘導するように風が吹く。
なんだ?
戸惑いに振り返ってみるも、誰も居ない。
その間も植え込みで外からは遮られているはずなのに、柔らかく風は炭治郎を進ませようとするかのようにどこからともなく吹き続ける。
それと同時に拒絶されている感もなくなり、むしろ招かれているような感覚が広がっていった。
不思議な感覚に炭治郎は戸惑い悩むが、結局こうしていても拉致が明かないし仕方ないのだから…と、決意して、風に押される方向へと進んでみる事にする。
もちろん炭治郎の脳内にはそちらに何があるかはきちんと記憶されていた。
確かこのまま行くと行き止まりで、薔薇で作った小さなレプリカの家の飾りがあるはずである。
そうして辿りついたそこには、やはり記憶の通りに針金で作った小さな家に薔薇の蔓をまきつかせた飾りがあったが、記憶と違っていたのはその小さな小さな家の中にうずくまるように眠っている少年がいたことだった。
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