生贄の祈り_ver.SBG_21_協力国

元々嵐の国がかなり攻撃的な国であること、使者の件、炭治郎の件で杏寿郎はかなり戦う方に傾いてきている。

確かに3大国と呼ばれる炎、水、嵐のうち、炎と嵐が戦えば、国力は炎が上でも近年戦争続きで戦い慣れている嵐には苦戦しないとは言い切れない。
僅差で勝つとは思うが、炎の国の犠牲も少なくはないだろう。

だがそこに最後の1国、水の国が加勢すれば、もうさすがに勝負にはならない。
象が蟻を踏みつぶす勢いで、嵐の国がつぶれることは請け合いだ。
少なくとも勝者になる炎と水の犠牲は最小限に抑えられる。

それでも錆兎がそれを躊躇するのには理由があった。

異端者を力で踏みつぶす。
それを諾とする体制を作ってしまえば、いつか理性のない者が力を持った時に非常に危険な状態を作ることになるし、今現在、炎と水で進めている、大国も小国も皆で話し合って作る平和的な世界という方針を逆走することになるからだ。

そういうことで大国2国だけで方針を決めるのは望ましくない。
どうしても嵐の国の暴走を力で抑えなければならないということになっても、そこには2国以外の中小の国々の意向というものも入っているという形にしなければならない。

要は…同盟国から”強制ではない同意”というものを得て初めて大国の独裁という形を避けられるということである。

さてそれではその、大国水の国の提案が自国の意向に沿わない場合にはねのけられる、つまり”同意はするがそれは強制にではない”とできる国はどれだけあるだろうか…、

少なくとも今思いつくのは1国しかない。
大きな国ではない。
戦えば負ける気はしない。
だが、勝つことも恐らく出来ない数少ない国。

「…幻王にご相談って感じか…」

錆兎は小さく息を吐きだすと、相談がある旨を書く小さな紙を用意する。
普通に詳細を書いた方が早いのかもしれないが、幻王に連絡をする手段が少しばかり特殊で、そこまで長い内容を書いた分厚い手紙は送れない。

──相談したいことがある。こちらに迎えに来るかそちらが来るかと日程の返答が欲しい。
とだけ書いた小さな紙を、幻王からの預かりもの…普段は自室の隅で過ごしているネズミに託す。

そう、戦おうにも幻の国は視界が悪い霧に覆われていたり、迷いやすい洞窟に囲まれていたりと、外部の人間が迷わずに辿り着くのは不可能に近い場所にある。
連絡手段も人だと尾けられもするが、小さな小さなネズミなので、普通に霧の中で見失う。
だから領土を広げようとあちらから出てこない限りは戦うこと自体ができないのだ。

国民に対しては裏切りを警戒して国を出ることはほぼ許していないし、錆兎がこうして交流が持てるようになったきっかけは、向こうの王が内陸にある自国では取れない塩を海に面している国の中で一番安定している水の国から輸入したいと交渉してきたことだ。

その後は互いに条件を話し合ったりしているうちに気があって、年に1度くらいは向こうから訪ねて来て話をしたりする仲になり、炎と水が主導している平和条約や同盟にも賛同してくれている。

そういう王同士の交流から協力体制は取っていても基本、独立独歩を貫いている幻の国の後押しもあれば、他の同盟国に根回しをする際にも強制という印象を持たれにくくなるだろう。

炎獅子にはそういうところはまどろっこしいと言われるが、同じことをやるのでも根回しや建前は大切だ。
結果が微妙に変わってくる。

やってること、やりたいこと、やろうとしていることは結局杏寿郎と同じなんだけどな…

水獅子王錆兎はそんなことをつぶやきつつため息をつきながらも

「じゃ、手間をかけて申し訳ないが、幻王の所まで届けてくれ」
と、手紙を背中に結んだネズミをそっと外へと送り出した。









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