「おかえり!
余裕で間に合ったようだな。
まあ君のことだから心配はしていなかったが…」
救出した義勇は疲れているだろうから、使用人に部屋まで案内するように命じておいた。
「一度国に戻って報告を待てば良かったのに…」
と、ドアを開けて親友の顔を見るなり、ただいまも言わずに呆れたような声音でそういう錆兎に、杏寿郎は
「いや、俺が頼んだのだから、待つくらいは当たり前だろう」
と笑顔で答える。
「で?襲撃者はどうした?
嵐の国の方には君の関与は気づかれているか?」
情報は共有しておきたい。
万が一、水の国の方に迷惑がかかるようなら、自分からの依頼だったことを明らかにしようと杏寿郎が聞くが、錆兎は
「襲撃者に関しては部下を残して来たが、時間をかけてあちこちに知られると面倒なことになるから、現地で処分していると思う。
嵐については少なくとも俺が王子を回収した時にはまだいなかった。
恐らく引渡し前だったんだろう。
服装から察するに付き人は皆、水の国の者だった。
まあ現場は隣接する4国のうち、唯一今回のことに関わっていないうちの国を通って行こうとしたらしくうちの国の領土内だったから、問題はない。
嵐の国から何か言って来ても、うちの領土内で不審な者をみつけたからで済む」
と、状況を説明する。
「そうか。それならよかった。
だが万が一揉めるようなことがあったら、遠慮なく俺の名を出してくれ」
とそれでも一応とそう言う杏寿郎に錆兎は大丈夫だと笑顔で頷きつつ、
「それより、問題は保護した子どものことだが…」
と話題を変えた。
「長旅で疲れただろうから今部屋で休ませているんだが、案内に炭治郎をつけておいた」
「ほお、山の国の少年を…」
「ああ、不遇な境遇の者同士親身になってくれそうだしな」
「そうだな。いや、彼は自分が不遇じゃなくとも心根の優しい少年だから親身にはなってくれるだろうが」
2人の獅子王共によく知る炭治郎少年は、今は無き山の国の皇太子である。
山の国は文字通り山あいにあった小国だ。
しかしかれこれ1年ほど前、炭治郎が炎の国に向かっていた道中で、嵐の国に滅ぼされてしまう。
戦いの最中であったなら戻るという選択肢もあったのだろうが、何故か本当に2日ほどという超短期間で決着がついてしまったため、炭治郎自身は戻らずそのまま炎の国に滞在していた。
もちろん嵐の国からは引渡し要求は来ていたが、杏寿郎は相手が幼い子どもで、本人が拒んでいるのを理由に引渡しを拒絶をした。
そして、炭治郎の安全を考えて念のため…と、嵐の国に滞在を知られている自国ではなく、炭治郎自身幼い頃からちょくちょく遊びに行っていたこともある炭治郎の祖母の実家のある水の国に秘かに預けているのであった。
それが例の使者が殺されて返ってきた直後のことで、炎の国と嵐の国の仲はここ1年で一気に悪化している。
それもあって、今回の森の国の王子の救出も炎の国が表立って行うことができなかったのだ。
ともあれ、炭治郎の身柄もまだどうするかを話し合わなければならないところに、もう一人保護してやらねばならない少年が現れたので、正直色々難しい。
炭治郎と違ってまだ実家である国が存在している森の国の王子の義勇はいったん実家に帰すというのが一般的なのだろうが、そうしても結局行き先は嵐の国だ。
では元々の目的地の嵐の国に送るかというと、それは杏寿郎が強硬に反対しているし、錆兎自身も炎の国とのこれまでの確執やここ最近の嵐の国のやり方をみると、どうも気がすすまない。
実家もダメ、嵐の国もダメとなると、本来なら救出依頼をしてきた杏寿郎が責任をもって自国でというのが正しいのだろうが、そういう事情で万が一、自国に人質として送られるはずだった王子が最近揉めている炎の国にいるということが嵐の国に知れたなら、今度こそ炎と嵐の全面戦争だ。
杏寿郎はそれでも構わないというが、戦いは時には避けて通れないものではあるものの、大国2国が戦えば犠牲は大きく民の犠牲も多くなる。
避けられるなら避けた方がいいし、どうしてもやるというなら犠牲を少しでも抑えられるように準備は万全にしてからやるべきだ。
ということで、義勇の身柄もいったん嵐の国の注意が向いていない水の国で預かるということで、炎と水、2国の王の間での共通認識が出来た。
まあ一番は炭治郎の時と同様に本人の希望を優先すべきというのはあるため、二人の獅子王の見解を説明しつつ、本人の希望を聞いて、最終的に水の国に滞在するよう説得するということで、二人の会談は終わった。
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