生贄の祈り_ver.SBG_19_悪寒

やがてドアがノックされ、どうやらリビングの方からメイドらしき声に昼食の用意が出来た事を告げられるが、とてもではないが寒くてベッドから出る事が出来ない。

なのであとで食べるので置いておいて欲しいとベッドの中から告げると、あとで食器を取りにくる旨を告げて下がって行く。

その気配を感じながら、ああ…これはあとで詫びなければならない非礼になるのだろうか…忘れないようにしないと…と、心の中で思いつつも義勇は毛布の中で身体を丸めていた。

せっかく用意されたものを残すなんて失礼だが、どうしても寒い。
しかし寒いのでもう少しかける物が欲しいなんて図々しい事を言う勇気はない。

そうしているうちになんだか呼吸するたび胸が痛くて、喉からヒューヒュー変な音がしてくる。

これは…風邪をひいたのか…?と、少し焦る。
王のマントを取っておいてそれでも風邪をひいたなんて間違っても知られるわけにはいかない。
どうしよう…

本当はこのまま大人しく寝ているのが一番良いのかもしれないが、万が一様子を見に来られたら……
とにかく見つからないように……



義勇は震える身体を叱咤してなんとかベッドから抜け出ると、
『少し庭を散歩してきます。すぐ戻ります』
と、紙に書いてリビングの食事の横に置いて自分の荷物を漁る。

そして少しでも寒さを防げるようにとガウンを取り出し身につけると、ベランダから庭へと足を向けた。
そして少し離れた植え込みの陰に身を隠す。

そうしていたって誰かが来る前にどうにかなるものではない…普通なら分かるそんな事も、生まれてこの方自分に与えられた小さな部屋から出る事なく育った義勇には思いつかない。

ただ、今この瞬間、見つからないようにと隠れると言う事しか頭に思い浮かばず、いつまで…とも考えられずに寒さに震えながら膝を抱えてうずくまった。


寒い…寒い……
震えながら思いだすのは何故かここに来る道中の事。
今と違って雨が降っていた時だって寒さなんて感じなかったように思う。

温かい身体…
身の程を思い出さずにただ受け取っていた温かい笑みや言葉の心地よさ…

でも結局現実なんてこんなものだ。
寒くて…痛い……

そう、自分は結局単なる生贄なのである。
当たり前にわかっていたはずなのに、何故かぽろり…と涙が一粒。
そうしているうちに義勇の意識は闇の中へと落ちて行った。





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