真菰さんに言わせると、錆兎さんは【昭和の親父】みたいなところのある人なのだという。
真菰さんと共に大叔父さんに引き取られて現代っ子も少なくはないお弟子さん達と接するうちにアップグレードされて今では表にだすことはないらしいが、幼い頃はよく『男なら、』とか『男として生まれたなら、』みたいな言葉を多用していたとのことだ。
真菰さんは『多様性の今の時代に古臭いというか…』と呆れた様子で言うのだが、あの凛々しい顔でカッコいい声でその言葉を口にする錆兎さんを生で見られたなんて、俺は、”羨ましい!!”という言葉しか出てこない。
そんな俺を見て
「義勇君って…ほんっとに錆兎のことが好きなんだねぇ…」
と、真菰さんはさらに呆れた顔をしたが、
「でもそれでも引かないどころか好意を感じるくらいなら、錆兎とずっとプライベートでやっていけるかもね」
と、俺に”昭和の嫁なら”当たり前の家事とやらを教え込んでくれた。
「昔の人と違って専業じゃないんだから、適度に手を抜いていいからね?」
と真菰さんは言うけど、錆兎さんに食べてもらえて、錆兎さんの血となり肉となる食事に手を抜くことなんて絶対にありえないし、錆兎さんが豪華な料理より普通の家庭料理が食べたい人だっていうことは、お正月の村田さん家のおせちでもわかっているんだ。
男は胃袋から落とせって言うけど、錆兎さんの場合は普通の人以上に、まさにそれ!って感じだ。
そもそもが『手を抜いていいからね』って言う真菰さん自身が、
「料理は愛情って言うのは本当なんだよ?
同じ材料で作ってもさ、下処理とかね、しなくても料理は完成するけど、した方が絶対に美味しくなる、ちょっとしたことをする手間を加えても美味しく作りたいほど相手を好きかどうかだから」
何ていうんだから、それをやらないという選択肢は俺にはない。
錆兎さんには俺が作ったものを少しでも美味しいって思って欲しい。
俺が居てくれて嬉しいっていう条件を少しでも増やしたい。
もちろん料理だけじゃなく、子どもの頃は当たり前にお仕事で忙しくても錆兎さんがやっておいてくれた共有部の掃除もするようにしているし、それよりも基本、まず温かい家庭を感じてもらえるように、錆兎さんが帰ってきたらできる限り玄関先まで出迎えて、『おかえりなさい』を言うようにしている。
もちろん俺は学生で、錆兎さんにとってはきちんと育てなければならない子どもだから、学業はおろそかにしないし、将来的にきちんと自立は出来るようにと考えてはいる。
……というか…不死川君が何故か”錆兎さんと同じように”公認会計士になるんだと言っているので、俺が別の職業について錆兎さんと離れて不死川君が代わりに錆兎さんの隣で仕事をしているなんて事態にならないように、俺も錆兎さんと一緒に働けるようにと公認会計士を目指して、とりあえず簿記の勉強から始めている。
あの小学校の一件以来、なんだか不死川君も錆兎さんのことが大好きになったんだろうけど、錆兎さんのことは絶対に渡さない!
俺は最近、そう心に固く誓って、日々家事と勉強に勤しんでいるのである。
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