水の国はその名に違わず大海に面して建っていて、庭に面した渡り廊下を歩けば風に乗ってわずかに潮の香りが漂ってくる。
「ああ、森の国は内陸の国だから海はないですよね。
この国は海沿いで、すぐそこが海だから、潮の匂いがするでしょう?
部屋にも海に面した窓があるから、夕方になったら覗いてみてください。
夕焼けがめちゃくちゃ綺麗だから」
と教えてくれた。
そう、立派というのもあるし、非常に手入れをされているというのもあるが、立地という面でも水の国の城は綺麗な城だった。
そこを治める王はもちろんのこと、さらに景色まで素晴らしいとなれば、もうここはこの世の天国なんじゃないだろうか…。
たとえ王族や貴族じゃなくて使用人だったとしても、こんな国に生まれ育って、そのまま過ごして骨を埋められるのであろう少年を、義勇は心の底から羨ましいと思った。
現に、この城では行きかう人々が皆幸せそうだ。
──…いいな…
とポツリと呟いた言葉は、別に声に出すつもりもなく出てしまったものだった。
それを自分の言葉に対してのものだと思ったのか、少年は
「ええ!本当に綺麗なのでぜひ見て下さい!
あ、そうだ!そのうち水獅子王の許可を取って塔に上りましょう!
あそこからだと夕焼けも星も眺めは最高なのでっ!」
と目をキラキラさせて言う。
「…塔?」
と、義勇がそれに少し興味をひかれて小首をかしげると、
「ええっ!ここからも見えるでしょう?
あの西側の建物ですっ」
と少年は少し離れた筒状の高い建物を指さした。
水の国の王城は全体的に手入れが行き届いてはいるがかなり古いことがわかる中で、明らかにその塔だけはアンバランスに新しい。
それを指摘すると、少年は
「あ~、以前は牢にいれることがためらわれる身分の貴族や王族が罪を犯した時の幽閉場所だったらしいんですけど、もう先々代よりずっと前から使われてなくて、現王が即位した時にもったいないから楽しいことに使おうということで、かなりおおがかりな修繕を行ったそうです。
で、今ではよく王侯貴族達が宴会を開いたりしてるんですよ。
子どもは高い場所だし危険がないとは言えないから王の許可を得た上で同伴者必須ですけどね」
と屈託なく笑う。
なんとも平和な城だ…とその話を聞いて義勇はさすがに呆れ返ってしまった。
そして…無理なのはわかっていても、また、やっぱりずっとここに居たいなぁ…と思ったのである。
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