生贄の祈り_ver.SBG_17_人質ではない滞在

そうして着いた部屋。

海に面した側は広い窓があって光いっぱいで、綺麗な青い絨毯が敷き詰められた廊下に並んだドアの中の一つの前で少年は止まった。
これもやはり友好国の王から頼まれた客人という位置づけのせいなのだろうか。
ドアを開けて入ったのは、義勇が見たこともないくらい綺麗で素敵な部屋だった。

「一応、他国から留学に来る王族や貴族の子息が滞在する部屋なので、たいていの物は揃っているとは思いますが、国によって生活習慣も違いますからね。
何か他に必要なものがあったらテーブルの上の呼び鈴を鳴らしてください。
係の者が来て、手配しますから」

そんな係の言葉に、

なんと…!
水の国でも人質を取ったりしているのか…。
いや、当たり前だし、水獅子王に会うまでは疑問にも思っていなかったが、この城の平和そのものな雰囲気を目の当たりにするとびっくりしてしまう。

だが、まあ部屋や使用人を見る限りは待遇は随分と良さそうだ。
少なくとも義勇が想像していた”人質の部屋や待遇”から随分とかけ離れている。

それを思わず口にすると、使用人の少年はびっくり眼になって、それから
「それ、いつの時代の話ですかっ」
と小さく噴き出した。

いやいや、今の時代の話だけど?と、義勇が自分の身の上を語ったら、
「ええっ?!そんな国もあるんですかっ!!」
と少年は今度こそ本当に驚いたように固まった。

そして言う。

「少なくとも水の国と炎の国ではそんな習慣はここ100年以上はありませんよ?
他国から王族の子弟が送られてきた場合は、こちらに滞在して、その間、この国の経済や文化、軍事などを学んで頂き、方針に賛同してもらえるようなら帰国後に不可侵条約と経済同盟を結んで、友好国として交流しています。
正直…一方的な隷属関係を結ぶ意味は少なくとも水の国にはありませんから」

ああ、なるほど。
そう言われればそうだ。

これだけの強国なら、権力欲…というものがなければ、確かに人質を取って脅したり隷属させるよりも滅ぼした方が手っ取り早いだろう。
そして…少なくとも義勇が見た水獅子王は強者のオーラはあれど、無駄に威圧したり自身を大きく見せようとしたりするところはなかった。

穏やかで義勇のような明らかな弱者にも優しい。
いつも上からがなり立てるように脅してくる嵐の国の王とはすごい違いだ。

ああ…せめて嵐の王が義勇を寄こせなどと言わなければ、使用人の少年が語る他国の子息達のようにこの国で穏やかに学んで、平和な形で国の安寧を保つのに役立つことが出来たのだろうか…。

さきほどまではこの国に生まれ育った使用人の少年が羨ましかったが、そう考えれば自分以外の王国の子息達も羨ましい。

森の国に生まれなければ…そうでなければ嵐の国の王に目をつけられなければ、自分も生贄以外の生きる道があったのだろうか…

義勇は思っても仕方のないことを思って、ひどく悲しい気持ちになったのであった。








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