…寒い…喉も痛い…ついでに身体の節々が痛む…
目を覚ました時に感じたのはそんな不快感だった。
最初にこの国に来た時に部屋まで案内してくれた少年の顔だった。
そもそもが、あの時義勇が目を覚ますと、いつもは必ず側にいてくれる錆兎の姿が見えなかった。
それにパニックを起こしたのが始まりである。
冷静に考えれば彼は一国の王だ。
仕事もあるだろうし、それまで義勇にずっと付き添っていた事自体がおかしい。
だが疎まれる事に慣れ過ぎていた義勇は、側に居ないイコール嫌われた、もしくは飽きられたのだと思ってしまった。
ここは他国で大国で、自分はその大国に招かれたわけでもなく、たまたまその国の端っこを通っていた時に面倒を起こしてその場に置いておくわけにも行かないからと連れて来られた人間だ。
本当なら迷惑以外何者でもない。
たまたま水獅子王がとても情け深い人だったから自国に連れて帰ってくれたのだが、そこでさらに体調を崩して面倒をかけるなんて、本当にありえない。
それでも錆兎は義勇にとって物ごころついてからというもの、亡くなってしまった姉以外では初めてくらい優しい態度で接してくれた相手でもある。
錆兎にとっては多くいる家臣や面倒をみている他国の人間の1人でも、義勇にとって錆兎は唯一の存在だ。
この世で唯一大切な存在…唯一の希望……
そう、まさに神様だ。
その神様が自分に刃を突き立てるなら、それはそれで構わない。
自分が嵐の国に対する生贄であるという自覚はあって、それをおおいに不満に思っていた義勇だが、嵐の国の王ではなく水獅子王錆兎が神様であったなら、自分は貢物として命を摘まれる事は全くかまわないのだ。
でもその神様に要らないと拒絶されて突き返されたら…自分には何の価値もない。
どうして良いのかも分からない。
だから動揺した。
怖かった。
とにかくジッとしていられなくて、ベッドを飛び出てリビングを見て、トイレも風呂もどこもかしこも見て回って、最後に辿りついたのは廊下へ出るドア。
最初にこの部屋に連れて来られた時、案内してくれた少年が外から鍵をかける音が聞こえたあのドア。
開いてはいないだろうと半ば思い、でも開いていたら…と思ったら怖くなった。
そしてちゃんと閉まっている事を確認したくてドアノブに手をかけて回したら、ドアはあっさり開いてしまった。
もうお前は必要ない。
ここから好きに出ていけ。
そんな水獅子王の意志表示なのだろうか…と、義勇はさらにパニックを起こす。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
自由に出ていくように鍵が開けられている…そんな事に気づかないフリでいれば、このままここに…今まで通りに居られるのだろうか……
そう思ってそのまま戻ろうと思った瞬間、誰かに声をかけられた。
しまった!気づかれてしまった!!
義勇が出ていく事を望まれている事を知っている事を知られてしまった!!
そう思った瞬間、パニックは最高潮に達した。
そしてパニックを極めた義勇はわけもわからないまま、目の前に広がる広大な中庭へと駆け込んだのである。
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