細い…小さい…脆い……
…………
…………
…………
怖い…怖くて、怖くて………
壊しそうなのが怖くて仕方がない……
岸にたどり着いた時に止まっていた呼吸はなんとか再開した。
弱々しい呼吸と鼓動。
ちょっとした刺激で壊れてしまいそうな脆さ……
守りたいのだ。
守ろうと思うのに、まるで自分の武骨な手で触れれば、割れて壊れてさらさらと砂のように空気に舞って消えてしまいそうな気がしてくる。
──真菰…どうすればいい?
途方に暮れたままの錆兎の目の前から、小柄で一見か弱そうな女のくせに実に軽々と義勇をだき上げる真菰。
「…あんた何してんのよっ!行くよっ!!」
と、そのまま歩きかけて一歩、そこで立ち止まってクルリと振り返ってそのまま固まっている錆兎にキリキリとそう声をかけると、真菰は今度こそ立ち止まらずにまっすぐ城に向かって歩き始めた。
強い女だ。
本当に強い。
義勇がこのくらいの強さと頑丈さを兼ね備えていれば、遠慮なくぎゅうぎゅうとだきしめて抱え込んで守るのに……
ああ、もっとも真菰くらいになると、守る必要もないのか……
(…下手すると俺くらい強いし、そもそも守る気にならないよな……)
と、それは心の中で思っただけなのに、何故かどこからか飛んでくるつぶて。
反射的に避けて見回すも、近くに人影なし。
「置いて行くよっ!!!」
と、本当に遠くから聞こえる声。
不思議な事もあるもんだと思いつつ、とにかく義勇を早く温かい場所で医師にみせてやらねばならない。
そう思いなおして、錆兎も慌てて真菰のあとを追った。
錆兎自身も常に前線に立って来たため多少の医術の知識はあるものの、その知識はもっぱら怪我専門だ。
病気関係は専門家に任せて方がいい…
なけなしの理性でそう判断して、場を医師に譲って自分は邪魔にならないように少し離れる。
全身から血が引いていくような感覚。
どんな過酷な戦場でも顔色一つ変えずにその身を置いて対処してきた冷静さと精神力には定評のある錆兎だったが、今、血が止まりそうな強さで握りこんだ拳が震えるのを止められないほど、怖かった。
唇を噛みしめ、視線は穴が開きそうな勢いで義勇が横たわるベッドに。
「…陛下………」
そんな錆兎の耳に飛び込んでくる遠慮がちな声。
余裕がなさそうな錆兎の様子を見て慌てて止める真菰に制されて俯く炭治郎に気づいて、錆兎は息を小さく吐き出した。
「ああ、なんだ、炭治郎」
と、そちらに声をかけると少し気遣わしげな真菰とホッとした表情の炭治郎。
「…あの……今回は……」
「聞こえていた。追い詰めるなというお前の判断は正しかった。
兵にもう少しお前の指示にも耳を傾けるように周知しておかないとな」
ポンと頭を撫でる錆兎に少し肩の力を抜きながらも、炭治郎はさらに少し不安げな困ったような顔で
「…すみません…。
でも俺もおそらく追い詰めてしまったんだと思います。
俺…長男なのに不甲斐ないです。
それまでわりあいと友好的な関係を築けていたと思ったんですが、亡国の皇太子だと言った途端に逃げだされてしまったんです」
と、うなだれる。
「あー…それは…悪い俺のミスだ。
なんというか…驚きやすいんだ、義勇は。
俺も最初国王だって分かった途端気絶されたしな。
意識が戻ったらきちんと同じ立場の友人候補だと紹介するから…」
パシンと額を片手で叩きながらそう言うと、錆兎は今度は炭治郎の顔を覗き込み、
「その時は仲良くしてやってくれ。
できるよな?」
と微笑みかける。
「もちろんですっ!陛下っ!」
「よし、それでこそ俺の愛弟子だ。
じゃ、とりあえず悪いが義勇の部屋をな、俺達の部屋のある東の宮に移すのを急ぐように侍従長に命じてきてくれるか?」
「わかりましたっ!」
与えられた役割に今度こそ心から安堵したように部屋を後にする炭治郎を見送って、ドアが閉まったのを確認すると、錆兎は貼りつけていた笑みを消してため息をついた。
「…錆兎、見なおしたわ。
今は炭治郎の事まで気遣う余裕はないと思ったけど……」
と、そこでさりげなく横に並ぶ真菰。
錆兎の隣で壁にもたれて立つ。
それに対して錆兎はこちらには笑みも浮かべず厳しい顔のまま
「…俺様は義勇を守ってやるとは決めてはいるが、今は炭治郎の保護者でもあるからな。
どちらかを優先しないと出来ない事ならとにかく、自分のメンタルの弱さで炭治郎を突き離すなんて事できるわけがない」
と、くしゃりと前髪を掴んだ。
それに対して真菰はクスリと笑みを零した。
「で、あたしにはその仏頂面なわけね」
「お前は大丈夫だろう?」
「か弱い乙女よ?」
「世界最強の女が何言っているんだか…」
そんな軽口の応酬の後、真菰はまあいいわ、と、肩をすくめた。
「錆兎は痩せ我慢が男の美学な人間だものね。
あたしはせいぜいその仮面を粉砕して我慢の下の顔を引きずりだして眺める事にするから。
あたしの前でだけは無駄だから痩せ我慢はやめときなさいね」
ああ…本当に真菰には敵わない。
男前すぎだろう。
泣きたい気分なのに苦い笑みがこぼれおちてしまう。
守ると言うより背中を預け合いたい存在、それがこの幼馴染なのだと思いつつ、錆兎はその事に少しホッとした。
更新ありがとうございます(* ´ ▽ ` *)ノ一人称の修正漏れです「俺様は義勇を守ってやる」→ギル様口調に...お暇な時にご確認くださいませ🙇
返信削除ご報告ありがとうございます。修正しました😊
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