生贄の祈り_ver.SBG_35_守護霊?守護妖精?

庭である…そんな認識も吹き飛んでしまうくらいに、義勇の目にはそこはまるで外のように木々が生い茂る広い空間だった。
もちろんその木は綺麗に秩序を持って植えられていたものではあったのだが、生まれてこの方部屋から出た事がほぼない義勇にそんな違いが分かるわけはない。

ただただ何も聞こえないようにと全神経を足元にだけ集中させて、走って逃げた。
幸い頭上はるか上まである植え込みの木々が義勇の姿を隠してくれる。

少し離れられたか…というあたりで足を止めて耳を澄ますと、はるか遠くで
──捕まえろーー!!
という衛兵の声がして、義勇は青くなった。

もしかして…鍵が開いていたのは実は手違いで、そこから出てしまった義勇は脱走した事になっているのか?!

これは…かなりまずいのかもしれない……
もしかしてドアに手をかけなければ、あのまま居られた……の……か……?

──…なのに……うかつに飛び出て逃げてしまったせいで……?
恐ろしい可能性に義勇は震えあがった。


──どうしよう…もうダメだ……
足から力が抜けてへなへなとその場にへたりこむ。

馬鹿だ…本当に馬鹿だ…
自分から神様の手を放してしまった……
怖くて悲しくて心細くて、どうして良いかわからず、義勇はとうとうヒックヒックと泣きだした。

が、当然そこにはこのところ何かあれば必ず慰めて気遣ってくれた錆兎はいない。
その事が悲しすぎて耐えきれそうになくて、
──…助けて……
と、それまでは口にするどころか望むという発想もなかった助けの手を求める言葉を震える唇で口にしたその時だった。

周りは植え込みに囲まれているはずなのに、ふわっと良い匂いの風が吹き抜ける。
そしてちりんちりんと銀の鈴が震えるような透きとおった綺麗な声が
──こっちよ…──
と、耳元をくすぐった。

どこか懐かしくも慕わしいその声…

──…え?──
驚いてあたりを見回しても誰の姿も見えない…と思った瞬間、頭上から光の粒が漂ってきて、義勇は思わず視線を上方に向ける。

ええ???
そこには何もない…いや、ふんわりきらきらとした光が舞っていた。

──ここは寒いわ?良いところを教えてあげる──
こっちよ…と、光はふわふわと義勇を誘導するようにある方向へと促した。

何がなんだかわからに…だが、悪いものは感じない。
というか、その声はどこか遥か昔に亡くなってしまった姉の蔦子を思わせる優しいもので、義勇は迷うことなくついて行った。

促されるまま辿りついたのは三方を植え込みに囲まれた行き止まり。

しかしそこには薔薇の蔓が巻き付いた小さな家の飾りがあった。
ミニチュアではあるが、義勇の1人くらい余裕で入れるし、なるほどここなら風もしのげるだろう。


──ありがとう……
と礼を言うと、光は、どういたしまして、と、優しい声で言うとそのまま家の上方をクルクル回った。

──ここなら寒くないでしょう?入りなさい?
との声に遠慮なく中に入ると、なるほど外よりもそこはかとなく温かい。
ふわっと香る薔薇の香りもどことなく安心感があって、義勇はいつのまにかウトウトし始めた。


次に目が覚めたのは自分のくしゃみのせいだった。
くしゅん!とくしゃみをした衝撃で目が覚める。

外はまだ明るいのでそう時間はたっていないのだろう。
そう思って起きあがろうとした時、小さな薔薇の小屋の外に人の気配を感じて視線を向けると、そこには最初の日、義勇を部屋に案内してくれた少年がいて、こちらに向かって手を伸ばしていた。

驚いた。
単純にそこに人がいたのにも驚いたし、それが彼だったのにも驚いて、ついつい悲鳴をあげて後ずさる。

するとあちらもびっくり眼に。
その後ひどく傷ついたような顔になって、次の瞬間ぽろぽろと泣きだしたのだ。

え?え?ええ???

焦って今度は義勇の方が手を伸ばした。
そして身を乗り出すと自分よりは背の高い少年の頭をそっと撫でる。
何故泣きだしたのかわからない。
泣いている相手を前にしてどうして良いか分からない。

でもとりあえず泣いているなら慰めなければ…と、触れた少年の髪は少し硬くて、でもサラサラで指どおりが良く手に心地よかった。

…何か…悲しい事があったの?大丈夫?

そう声をかけると
…ごめっ……すまなっ…い……
と、フルフルと首をふる様子がなんだか幼子のように愛らしく見えて、義勇は思わずその頭を胸元にだき寄せた。

それを拒絶する事なく、逆におずおずと背に回される手。
そうしてそれからしばらく、少年が泣きやむまでそうやってその頭を撫で続けていた。

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