「気遣いが足りなくてすみませんでした…」
2人して目と鼻の頭が真っ赤になるほど泣いた後、先に泣き止んだ炭治郎はそう謝罪した。
そして手にしたハンカチで義勇の目元を拭いてやる。
それを見越して陛下が俺にあなたを任せてくれたのに全然わかってなくて、未熟でした…」
と、困ったような笑みを浮かべる炭治郎に、義勇はようやく泣き止んで不思議そうな視線をむけた。
好奇心が現在の悲しさやその他の感情を上回って、
「帰る国がないって…君はこの国の人じゃないの?」
と思わず小首をかしげて聞く義勇に、炭治郎はゆっくりと首を横にふりかけて…そして少し悩んだ様に動きを止める。
「えっと…母方の祖母がこの国の人間なんですけど、俺自身は山の国の人間です。
本当は普通に自分のルーツの一つであるこの水の国の祖母の実家を訪ねつつ、しばらく水の国に滞在して色々学ぶ予定だったんですけど、こちらに来る道中、故国が嵐の国に滅ぼされて戻るに戻れず、そのまま水の国の城でお世話になってるんです。
だから…全く水の国に無関係かというとそうじゃないんですけど、俺は君と同じ他国人です」
「…国が…嵐の国に……」
その話を聞いて義勇は大きく眼を見開いて固まった。
普通なら自国を滅ぼされたとか聞けば、悪いことを聞いてしまったとか、そんな考えが出てくるところなのだが、義勇の脳内は目の前の少年の国が滅ぼされたということよりもまず、また嵐の国か…というところに意識が向いた。
義勇の姉を間接的に殺し、名を汚した憎い国。
森の国を訪ねて来たかの国の当時の皇太子、現嵐の国の王は粗暴でいかにも残虐そうな男だった。
あの男がまた、義勇に親切にしてくれているこの少年の国を滅ぼしたのかと思えば、嫌悪の気持ちが蘇ってくる。
「嵐の国には…俺も姉を殺されてるんだ…。
あの国はダメだ。本当にダメだ…」
じわりと浮かんできた涙は悲しさからなのか悔しさからなのか。
義勇本人にもわからないのだが、少年はまた義勇の涙を拭いてくれながら
「そうだったのか…。
良い評判は聞かない国だけど、本当にひどい輩なんだな」
と怒りの表情を浮かべた。
そして言う。
「待っていてください。
俺はここで色々学んで、出来れば水獅子王の手を借りて…水獅子王がダメなら炎獅子王に頭を下げて、それでもダメならどんなことをしてでも兵を集めて国に戻って、俺達の国を取り戻すつもりなんです。
皇太子の俺が国に戻ればきっと今は圧政で押さえつけられている国民も立ち上がってくれると思うし、国を再興したら真っ先に嵐の国を倒します。
そうして嵐の国の王を捉えられたら処刑までには義勇さんも招待しますね」
怒りに満ちた目でこぶしを握り締める炭治郎。
そうなったら良いな…と一瞬思う義勇だが、そこでふと気づいてしまった。
──皇太子の俺が国に戻れば……え?皇太子……皇太子っ?!!
うあああ~~!!!!!
いくら亡国のとは言え、自分は一国の皇太子を使用人だと思って普通に使ってしまっていたのかっ!!
よくよく考えれば相手がしてくれること以外、特に自分から何かを頼んだり命じたりもしていないし、格段失礼な発言もしていない。
ただ脳内の認識として間違っていただけで、それを表に出してもいないはずなのだが、あまりに驚きすぎて義勇はパニックに陥った。
「…こうたいし…でんか?」
「ああ、そうだが…でも…」
”今は国はなく実質水の国の居候だから…と続けようとする炭治郎の言葉は、しかし動揺している義勇の耳に入ることはなかった。
そう、義勇はとにかくこの場から逃げなければ…となぜか思ってしまって、まるで肉食獣に出くわしたウサギのように、ぴゃっと飛び上がると、ものすごい速さで駆けだして行ったからである。
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