kmt 村田
──皆、よく頑張ってくれたね。 無惨を倒してから半月ほど過ぎた頃だった。 すでに瓦解した旧産屋敷邸は取り壊されて更地になり、実は秘かに用意されていた別邸で正真正銘最後の柱合会議が開かれた。
ごおぉぉ~~!!!! と雄たけびのような風切り音を響かせて無惨に向けて牙を剥く青い獅子。 その牙をかいくぐったわずかな触手が獅子の発現元に向かおうとするが、それは凪で防がれた。
(ごめんね、皆…。俺はここまでだ…) そう思いながら、村田は大きく息を吸って渾身の力で ──水の呼吸 拾壱ノ型…凪っ!! と、刀を振るった。
薬の分解が終わっていないから弱っている…確かにそうかもしれない。 しかしそれは首を刎ねれば倒せる…その程度のもので、攻撃の苛烈さには影響していない気がする。
──俺じゃ攻撃しても戦力外だし可能な限り攻撃防ぐ側に回るねっ と、まずそう宣言して村田は各々の役割確認を暗に促す。
え?なにこれ…… 鬼の首を斬る仕事についてもう何年も経つ。 お世辞にも美しいとは言えない光景を見るのももう慣れっこだ。 それでも目の前の肉色の塊はグロい。 正直気持ち悪い。 そんな感性が自分にまだ残ってたんだな…と感心しながら、村田は周りの様子を窺った。
思いもかけず上弦の参と弐がほぼ同時に片が付き、上弦の壱は錆兎を置いてきたことで戦闘時間ゼロで抜けたので、前世よりも随分と早く展開が進んでいる。 その結果が引き起こした奇跡として、珠世がまだ生存していた。
こうして本来の上弦の弐担当組と合流した村田と錆兎は共に今度は悲鳴嶼、不死川兄弟、カナエ、カナヲ、無一郎が上弦の壱と対峙しているであろうあたりへと急いだ。 悲鳴嶼、不死川兄弟、無一郎は前世で上弦の壱を倒しているが、その時は不死川玄弥と無一郎が戦死、不死川実弥が指を失っている。
──えっ?!!宇髄、無事だったのっ?!!伊黒も蜜璃ちゃんも… そこには宇髄だけではない。 伊黒も甘露寺もいた。 その村田の言葉に首をかしげる宇髄。
──やったっ!!! 童磨が首を刎ねられてサラサラと砂状になって消えたのを目撃して、村田は心底ホッとした。
──凪っ!! と、義勇に教わったその水の呼吸の防御の型の最高峰の技を使ったのはほぼ条件反射だった。 しかし剣戟のようなもの以外にひやりと冷たい空気を感じて慌てて息を止めるとそれを避ける。
こうしてまるで何か好敵手同士の試合のような清々しさで始まる戦い。 立会人に徹する村田は戦いの余波を受けないように距離を取った。 それはすなわち自分の身の安全を確保するということと共に、錆兎が不利になっても介入しないと言うことを意味する。
──よく来たなっ!待ちかねたぞっ!女房も息災かっ?! 満面の笑みで言う男…。 フラミンゴカラーの髪に体中に入れ墨のような模様。 格闘家らしく鍛え上げられた体躯。 外見は角が生えているとかいうこともなく人そのものだが、意外に豊かで長いまつげの下の目には上弦、参の文字があることで、彼...
凪を習っておいて良かった…と村田は思う。 初っ端、無惨が姿を現した時点で錆兎から各柱に連絡が行き、皆が産屋敷邸を目指し急いでいた。
無惨がお館様の前に現れた頃、村田はお館様がおっしゃったように今日明日にでも決戦になるのならその前に腹ごしらえを…と、錆兎と夕飯を食べていた。 錆兎は昼間にお館様の座を辞したあと、義勇の好きな鮭大根を作って花柱屋敷を訪ね、そのあとに村田と夕飯の買い物をして帰る。
最後の柱合会議でそう決めたように、義勇が出産まで花柱屋敷にいて1人きりは寂しいだろうから…と理由付けて村田が自分の水柱屋敷に戻らず産屋敷邸の敷地内の錆兎の家に泊まるようになって半年ほど。
こうして決戦時の各々の行動についての計画は経て、相手側の城で飛ばされる時も一緒に飛ばされるように共に戦う相手の傍に極力居るということを確認後、最後になるかもしれない柱合会議は解散した。
錆兎とお館様と話をした翌々日、最終決戦について話し合うために臨時で柱合会議が開かれた。 前世での大方の流れは3人の時に村田が説明したのだが、さすがに全員が村田の言うことを信じてくれるわけではないだろう。
それからはなかなか怒涛だった。 普通なら柱稽古で最後の隊士を次に送り出せばゆっくりできるところなのだが、なまじこの先のことを知っているだけにそうはいかない。
正直、ずっと本当のことを言うのが怖かった。 最初はそんなことを言ったら頭がおかしいと思われる、信じてもらえるはずがないという理由だった。 が、錆兎と友達になって親しく付き合っていくうちに、前世では自分が早いうちにあっさり死んでしまったことを知れば少なからぬショックを受けるんじゃな...