村田の人生やり直し中_92_お前は古い友達かっ?!

──よく来たなっ!待ちかねたぞっ!女房も息災かっ?!

満面の笑みで言う男…。
フラミンゴカラーの髪に体中に入れ墨のような模様。
格闘家らしく鍛え上げられた体躯。
外見は角が生えているとかいうこともなく人そのものだが、意外に豊かで長いまつげの下の目には上弦、参の文字があることで、彼が十二鬼月と呼ばれる特別に強い鬼の中でも3番目に強い鬼であることがわかる。

しかしながら、錆兎を己が待機していた部屋の中に招き入れる時の笑顔は本当に長く会わなかった親しい友人に再会した人間のように邪気がなく嬉しそうで、その口から出てくる言葉もこれから殺し合う相手にかける言葉とは思えない。

錆兎の方も特に緊張した様子もなく、
──ああ、おかげさまで今腹に子を抱えていて、あと2月3月したら生まれる予定だ。
などと当たり前にその世間話に乗っている。

良いのかっ?!
鬼の頂点である十二鬼月の上弦と鬼殺隊の頂点の柱を統べる男がこんな和やかに世間話をしていて良いのかっ?!

驚きながらもやはり緊張する村田に錆兎は
「安心しろ。猗窩座は不意をついて勝ちをかすめ取ろうとするような奴じゃない。
戦いが始まる前にはきちんと互いにそれを伝え合うことになるから、それまではそう緊張するな」
と言い、猗窩座はその言葉に
「その通りだ。
俺は正々堂々とする勝負が好きだ」
と満足げに頷いた。

ああ、ここでも正々堂々…もしかして似た者同士か?と呆れつつも少し肩の力を抜く村田。

そういうわけで…と話を続けようとする錆兎だが、村田はそこで待ったをかけた。
「ごめん、俺は今回立会人として同行させてもらっているわけなんだけど、戦いの規則について先にきちんと明確にさせてもらっておいていい?」

錆兎は否とは言わないだろう。
案の定、
「ああ、そうだな。
いつだって冷静で公平で実直なお前がそうと決めた規則なら俺は正しいと思うしそれに従うぞ」
と了承してくれる。

問題は…猗窩座の方だ。

彼は強者である錆兎のことは尊重しているが、柱にしてもそこまで強いとは言い難い村田のことはそうではないだろう。

果たして村田の言葉をきいてもらえるか……と思いつつ反応を待っていたのだが、そこで錆兎が

「猗窩座、この村田は俺が俺を育ててくれた師範の次に信用している男だ。
確かに武闘家としては俺やお前に劣るかもしれないが、出会った時には今俺の子を宿している義勇をかばって怪我を負い、その後、言葉を弄してくる敵に平静さを失って倒されるところだった俺の冷静さを取り戻してくれた。
いつでも謙虚で善良で公平で…鬼殺隊内でも人格者として名高い男だから、俺はこいつの言葉は無条件に受け入れるし、お前はこいつの言葉が信用できないと言うことなら、こいつの言葉は全て俺が保証した俺の言葉だと思って聞いてくれると嬉しい」
と、添えてくれる。

うわぁぁ…と村田はその言葉に胸が熱くなった。
まあいつものことではあるのだが、錆兎の自分に対する信頼は本当にすごくて、他からの錆兎に対する信用にかかわると思えば、絶対にいい加減なことは言えないと思う。

「ふむ…。まあ、いいだろう。
確かに戦いにおいて予め決まり事を明確にしておくのは悪いことではない。
お前ほどの人間がそこまで言う相手ならおかしなことも言うまい。
とりあえず聞いてやる。言ってみろ」

猗窩座は余裕で腕組みをしながらそう言って村田に視線をむけた。
それに礼を言うと、村田は慎重に話し始めた。


「まず第一に勝敗の決しかたについて。
普通に考えれば鬼は死なないわけだから、どちらかが死ぬまでという条件だと絶対に鬼が勝つし平等じゃない。
普通はそれでも首を斬られれば死ぬんだけど、中には首を斬られれば死ぬと言う性質さえも克服した鬼がいるのね。
猗窩座は上弦だからあるいはそれに続く可能性もあるしさ、首を斬られても死なないとなったらもう負けることがないでしょ。
そうなるとそれってもう公平な勝負じゃないよね。
努力とか技能とか関係なく、こういう言い方はなんだけど、ズルと言うか…。
だからどちらが勝ったかの判定は鬼の側は首を斬られた時、人の側は刀を握れなくなった時でどうかなと思うんだけど…。
えっと…念のためね、首を斬り落とされた時じゃなく、首を斬られた時、ね。
猗窩座が必ずしも前述の条件を克服しているかはわからないし、人の側が戦闘不能になった時という条件なら、鬼の側も死ぬまでやっちゃダメだと思うから」

「なるほど。錆兎の側だけではなく俺にも配慮するか…。
確かに公平な男だな。それは認めよう。
ただ、命をかけないという条件は真剣勝負としてはどうかと思うが?」

それまでは錆兎と共に来ただけの錆兎の付属品の取るに足りない者という目で見ていた猗窩座の視線が、しっかりと真剣に村田に向けられた。

とりあえず不快感は与えずに済んだらしい。
それに安心して村田は続けた。

「俺は前回の二人の戦いの時も怪我人の救助がてらやりとりを聞いていたんだけど、猗窩座の目的はなるべく長く良い戦いをするということだったと思う。
それなら真剣に戦って勝敗がついたあとは互いにいったん引いて鍛え直して再戦するのも良いんじゃないかと思うんだ。
で、錆兎の側の利点としては…義勇の腹に子がいるから。
これは本当に俺の都合なんだけど、俺は義勇に絶対に錆兎を生きて返してくれと厳命されてるのね。
こういう戦いでそれを望んじゃダメって言うのはあるんだけど、せめて子を父親に会わせたいっていう妊婦さんに無理とは言えないじゃない?
今回はこの決戦日までに出産間に合わなかったからさ。
互いに命を取ることが目的の勝負ならもう諦めるしかないんだけど、勝負をすることに意義があるなら、命までは取り合わずに戦って己の足りなさを実感して鍛えて再戦ってのもありかなと。
もちろん真剣に戦えば殺す気がなくても殺しちゃう死んじゃうっていうのはあると思うし、それは仕方ないけどね。
手加減しろというんじゃなくて、もう明らかに相手が戦えなくてってところまで追い込んで、自分の勝ちが決定したなら敢えてとどめを刺すまではしないってことならいいかなと。
その場合は勢いが止まらないようなら俺が間に入って終了を告げるし、俺が入った時点でもう勝敗はついたってことで互いに引いて欲しい。
それこそ錆兎がそこで再戦できない傷を負っても、生きて帰ればさらに己の強い血を引いた子を作れるからね。
強者がこの世に多く誕生する。
猗窩座は鬼で永遠を生きるから、錆兎の子が戦える年まで待つくらいあっという間でしょ?
…ってことで、どうかな?」

言うだけ言うと、村田はドキドキしながら猗窩座の反応を待つ。
しかし意義が入ったのは猗窩座ではなく錆兎からだった。

「基本的には良いと思う。
だが俺に対しての敗北の条件はどうだろうか…。
刀が握れなくとも戦う意思があるうちは保護されるべきではない。
村田は義勇に忖度しすぎだ」

いやいや、お前が意義を唱えるなよ。
お前が死んだら義勇も前世と同じく死んだ魚みたいな目の無愛想人間になるからね?
お前の矜持より腹に居る子のことも考えろよっ。
父親の責任ってあるだろうよっ。
…と村田は言いたい。
断固として主張したい。

しかし…錆兎と二人きりならとにかく猗窩座もいるこの場で口にすることが出来ない村田の主張は、なんと敵のはずの猗窩座が言ってくれた。

「その心意気は良しと思う。
武人としてはあっばれだ。
だがこの男の言うことは正しいぞ。
お前がまず大切にしなければならないのは嫁と子どもだ。
少なくとも嫁が腹に子がいて体調が不安定な時に無駄に死に急ぐものではない。
正々堂々勝負はする。
その過程で命を落とすのは致し方ないだろう。
だが勝負がついてあとはただ武器を振り下ろすだけとなれば、敢えてそれをする意味は俺の方にもない。
それどころかそれでお前の嫁が体に不調をきたして子が無事産まれてこないとなれば、俺がやってきたことは無駄になるし、将来に渡ってお前の血を継ぐ強者と戦い続けるという俺の楽しみもなくなる。
もしそれが情けをかけられるようで情けないということなら、死ぬ気で戦えっ。
俺を倒すことだけを考えて全力で戦えっ!
俺に勝てばお前の矜持も嫁の安らぎも子の将来も全て守られるだろう。
それともお前は大切なものを背負って戦う気概もない男だったのかっ?!」

え?ええっ??なにこいつっ!めっちゃいい奴じゃんっ!!

猗窩座のことは前回の錆兎のやりとりと前世の炭治郎の話だけで知っていたのだが、なんだか人間よりも善人な気がした。
なんだかわくわくとする冒険活劇のような世界である。
なんで鬼やってんの?…と聞いてみたいくらいだ。

猗窩座にそう言われて錆兎は納得したようだ

──そうだったな。勝てば問題はないんだ。勝てばいい。
気を取り直してそう言うと日輪刀の柄に手をかける。

──そうだっ!互いに全力を尽くして至高の域に到達するぞっ!!
と、それを見て猗窩座がにやりと不敵に笑って戦う構えを取った。

そうしておいて猗窩座は何と
「そこの立会人、貴様も無茶はするな。
下手に割って入れば貴様の方が死ぬしそうなれば見届け人がいなくなる。
勝負がついたと思った時はまず口頭で叫んで伝えろ。
そうすれば俺は手を止める」
と、村田に対してまで気遣ってくれる至れり尽くせり度だ。

まあそれに関しては
「大丈夫。
俺はこんなんだけど一応防御に特化した水柱で、今回は特に防衛に特化した型を取得してきてるから。
相手を倒せないけど自分も倒れないと思う。
でも気遣いありがとう」
と伝えると、猗窩座は一瞬目を丸くして、それから

「どうせならその技も見てみたい。
これは…絶対に勝たねばな」
と笑った。






0 件のコメント :

コメントを投稿