村田の人生やり直し中_86_過去と未来のすり合わせ

それからはなかなか怒涛だった。

普通なら柱稽古で最後の隊士を次に送り出せばゆっくりできるところなのだが、なまじこの先のことを知っているだけにそうはいかない。

──とりあえずまずは耀哉の説得だなっ
と、一隊士ではなく友達モードになった錆兎は、有無を言わさずお館様の館へ村田を連れて押しかけた。

そうして人払いをさせたあと、3人きりになった第一声が

──耀哉、お前、馬鹿だろうっ

…で、その遠慮というものも礼儀というものも全て宇宙の彼方に放り投げたような錆兎の発言に、村田の方が青ざめる。

その言い草にお館様は気を悪くする様子は微塵もなく、しかし少し驚いた目を何故か村田に向けてきた。

それに錆兎が
「ああ、村田は俺達の私生活での友人関係を知っているから気にするな。
それよりお前のくだらない計画は中止しろ。
自分だけでも大馬鹿野郎だが、妻子まで無惨をおびき寄せる道連れにするとか、俺が許さんっ」
と、随分と上から目線で物を申す。

まあ、彼らの関係の始まりは幼い頃とは言えお館様の方が錆兎に剣術を教わるという形で始まっているらしいから、そういうこともあるのかもしれないが…。

錆兎のその言葉にお館様は何故バレた?とばかりに一瞬目を丸くして、それから
「どうしてわかっちゃった?
もしかして…今までの上弦とかの情報の出どころと関係してる?」
と、苦笑交じりに聞いてきた。

(…お前に聞いた話、耀哉とも共有して大丈夫だよな?)
と、そこで錆兎がこっそりと聞いてくるのに、村田は頷いた。

これがお館様に…ということだと、やはり根拠を提示できない以上ためらいもあるが、今目の前にしているのは、鬼殺隊のお館様ではなく、錆兎の友人の耀哉なのだと思うと、まあ、いいかという気になる。


そこで錆兎が村田が話した話を説明すると、お館様は全く疑うことなく

「…なるほどね。
これまで錆兎から来ていた情報のでどころはそういうことだったんだね。
素晴らしいね。
私の代で無惨を倒せることは基本として、それにさらに少しでも犠牲を少なくということまで考えられるなんて」
と、にこやかに頷いた。

「…そういうわけだから、全て捨てるつもりの計画はダメだぞ?
そもそもが無惨をおびき寄せるにしても、すでに前世からは前提が変わっている。
この家には離れがあってそこに俺が住んでいるし、それこそ前世で上弦の弐を倒すために自ら毒に身を染めたしのぶは毒を飲み続けていないどころか、そこまで育っても居ない。
義勇だって今は腹に子が居て戦力外だし、元々上弦と対峙できるほどには鍛えていないだろう?
その代わりに俺も煉獄も胡蝶も生きていて、宇髄も脱落していないし、なんなら槇寿郎さんだって現役で戦えるくらいに鍛え続けている。
とりあえずおびき寄せるにしても、ここしばらく花屋敷にお預かりの義勇はとにかく、ここに住んでいる俺がいないのは不自然だし、戦力になる俺まで爆破するのは得策じゃないだろう?
ということで、ここを爆破するのはなしだ。
柱が全員集合するまでの無惨の引き留め役はお前だが、お前と奥方様の身は俺が守って、戦いの準備が整ったら先生と槇寿郎さんあたりと護衛を交代だ」

「う~ん…でもね、君は今回の戦いの中心人物になると思うからね。
単独なだけじゃなくて私達と言うお荷物を抱えて無惨と対峙するなんて危険を冒させたくはないかなぁ…」

「…それを言うなら、お前は御輿だ。
居ると居ないでは皆の士気が変わる」

二人で分かれる意見。
気の置けない関係だけあって双方譲る気はなさそうに見える。
そこで村田はソロソロと手を挙げた。

「あの…じゃあさ、俺が錆兎の家に遊びに来ているってことでどうかな?
自分で言うのもなんだけど、普通に互いに家に遊びに行くくらいに仲は良いし?
もちろん俺が無惨を倒すとかは絶対に無理。
だけど防御に特化した水の呼吸の柱だからね。
他の柱よりは耐えることなら出来ると思うから、いざとなったら俺が護衛を引き継いで錆兎を戦力が揃うまで撤退させる。
もちろん可能なら二人で耐えるけど、いよいよとなったら…ね」

「…それは……」
と、錆兎はその言葉に驚いて、そして表情で難色を示すが、お館様は大きく頷いて
「そうだね。大志だって大切な柱ではあるけど、錆兎は勝敗の鍵を握る存在になるから特別だ。
出来る限り犠牲は減らす。
二人で耐えて、でもいよいよとなったら、鬼殺隊側の勝利を最優先しなければならない。
そのためには極力そうならないように努力はするにしても、私も妻も最悪の時の覚悟は決めるし、私たちの命よりも無惨を倒す可能性の高い錆兎が生き残ることを優先すべきだ。
それが出来ないならやはり館の爆破を選ぶよ」

と、それは断固とした口調で言われて、それ以上の譲歩は望めないと悟ったのだろう。
錆兎もそれに渋々と頷いた。








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