正直、ずっと本当のことを言うのが怖かった。
最初はそんなことを言ったら頭がおかしいと思われる、信じてもらえるはずがないという理由だった。
が、錆兎と友達になって親しく付き合っていくうちに、前世では自分が早いうちにあっさり死んでしまったことを知れば少なからぬショックを受けるんじゃないだろうか…という、相手を気遣う理由に変わっていく。
でも今生で縁があって出来た親友との交流は、殺伐とした鬼狩りの仕事に勤しむ生活の中で随分と村田の心を温かくしてくれた。
なので、なるべくなら相手を傷つけたくない。
だから言いたくない。
そう思って未来を知っている理由については口を閉ざしてきたわけなのだが、今回とうとう言ってしまった。
自分は一度は無惨戦を超えて生き残り、24歳で事故であっけなく死んだこと、だからそこに至るまでの全てを知っているのだと口にする。
そしてその後、村田はあれだけ口にするのをためらっていた錆兎自身は最終選別で村田達同期全員を守って死んだことも伝えたのだが、錆兎は別にショックを受けることもなく、ただ目を丸くして
──戦いの場で感情を制御できずに死ぬとは、本当に未熟者だな。
と、他人事のように言った。
そのあっけない反応に村田の方が驚いてしまう。
すると錆兎は
「でも想像はつくな。
俺だけじゃない。
俺を含めて先生の弟子達は皆先生のことが大好きすぎるから、自分のことなら平気でも先生を落とされるとキレる」
と笑って言った。
「うん。そうみたいだね。
だからさ、俺はお前よりはるかに弱くて当時なんか普通の鬼も斬れないような状況だったし、お前を死なせない唯一の方法は義勇を傍に置いてお前が死ねば義勇も巻き添えだと思わせることだったんだよな…」
当時を思い出して村田がそう言うと、
「違いないっ!
村田は賢いなっ」
と錆兎は噴き出す。
錆兎に関しての話についてはこうして意外に和やかに終わって、その後は順に自分が見てきた前世の流れについて覚えている限りを語る村田に錆兎は黙って耳を傾けた。
そうして全てを話し終えて、話してしまうことで意外に支障がなかったことに気づいて
「…こんなに支障がないならもっと早くお前に話していれば、もっと救える命があったのかもな……」
と、村田がまた改めて落ち込めば、錆兎はそれを慰めるようにポンポンと村田の肩を叩きながら、
「いや…今だから俺もしょうもない子どもだなと呆れるに留められるが、お前の言う前世の死期に近い年頃の頃に聞けばまた反応は違ったと思う。
だからお前がこの時期まで打ち明けなかったのは、必ずしも悪い結果をもたらしたとは言えないんじゃないか?
…まあ、悔やんでも何にもならない過ぎてしまったことを気にするよりは、これからのことを考えよう」
と、実際に考えて行かねばならない…これから救わなければならない命について数え始めた。
確かにそうだ。
前世では柱の多くは無限城戦で命を落としているし、そこで生存した者でも痣の発現で短命になったり、無理がたたって後遺症が残ったりしている。
なによりまずは無惨をおびき寄せるのに命を落とすことになった、お館様ご夫婦とお子様のうちの二人を犠牲にせず、いかに最終決戦を始めるかを考えねばならないだろう。
落ち込んでいる暇はない。
とにかく死ぬ可能性のある命を拾って拾って拾って…少しでも多くの同志と共に鬼の居ない夜明けを目指すのだ。
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