──桑島慈悟郎死亡っ!桑島慈悟郎死亡っ!!
はぁ??と錆兎と二人顔を見合わせて驚きに目を丸くする。
桑島慈悟郎と言うのは元鳴柱で、善逸の師範だったはずだ。
錆兎の師範の元水柱の鱗滝左近次と同世代の老人である。
なのに何故鬼殺隊関係の連絡係である鎹烏がその死を告げてくる?
と、ショックは受けながらも錆兎はそう首をかしげるが、村田は前世の記憶があるので、しまったっ!!と青ざめた。
無惨殲滅に大きく影響する上弦戦に気を取られていて、そのほかのことをすっかり忘れていた。
ああ…竈門家以来の大失敗だ…と、頭を抱える。
桑島の弟子で善逸の兄弟子でもある獪岳が鬼になった責任を取っての切腹ということは前世でやはり炭治郎から聞いていた。
でも獪岳がどういうタイミングで鬼になったかなどというところまでは知らないので、鬼にならないようにするということはおそらくできなかっただろう。
だが、桑島の自害はお館様や錆兎の耳に入れておけば、回避できたのではないかと思う。
まあ…戦うことが嫌いで戦闘に積極的でなかった善逸が上弦の陸になった獪岳を倒すまでに強くなったきっかけはこの桑島老の自害かもしれないからここを回避させて良いのかどうかはわからない。
が、少なくとも前世よりも多くの柱が生き残っていて、皆強くなっていて、上弦や無惨に関する情報も多くあるので、村田的にはこの師範の壮絶な死で善逸が心にとてつもなく深い傷を負わなくてもなんとか倒せたのではないかと思っているのだが……
だからそのことを失念していたことには後悔しかない。
そんな風に頭を抱えて青ざめた顔で涙をこぼす村田。
それに、
「…もしかして…桑島老の死も予測していたのか?」
と、敏い錆兎が察したように尋ねてきたので、村田はただ
「…気を抜きすぎて失念してた……」
と、その場にしゃがみこんだ。
……命が重すぎる…。
竈門家の時も思ったのだが、ちっぽけで平凡な自分が抱えるには、失っていく命は重すぎた。
竈門家の時は一緒に居たのはまだ少年の炭治郎で年長の自分が崩れるわけにはいかず、とにかく必死で彼の身元を保護したのだが、今は傍に居るのが錆兎だからだろうか…力が入らない。
痩せ我慢でも良いから耐えるということが出来ない。
ただしゃがみこんだ地面に生える雑草を無意識につかみながら村田が涙をこぼしていると、錆兎も隣にしゃがみこんだ。
そうして村田の肩にポン!と手を置き、村田の顔を覗き込んで言う。
「…村田……良ければ全部話してみないか?
お前が何故これから起こるであろう色々な出来事を知っているのか。
必要な事だけでいい。
言いたくないことは言わなくてもいい。
俺からは聞かない。
だがお前が必要だと判断したわかる範囲のことを予め言っておいてくれれば、俺も一緒に覚えているから一人で後悔しなくていいだろう?
俺はお前を信じるから。
お前の言うことを全部信用するから」
そう言われてそれでも否と言えるほど、村田は心を強く持つことは出来なかった。
自分が忘れていたから…自分がミスしたから…だから助けられなかった、だから人が死んだ…辛い、辛い、辛い…
──…半分…さ、背負ってもらっていい?
とうとう村田がそう言って顔をあげると、今生では誰よりも近くなった強く正しく優しい友人は
──まかせろっ。一緒に持てば余裕も出来るし、より多くを抱えることができる。
と笑顔を見せて言った。
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