村田の人生やり直し中_103_完全勝利っ!!

ごおぉぉ~~!!!!
と雄たけびのような風切り音を響かせて無惨に向けて牙を剥く青い獅子。

その牙をかいくぐったわずかな触手が獅子の発現元に向かおうとするが、それは凪で防がれた。

そうして一瞬丸腰になる無惨。

──源氏武者式 神!壱の型 朱雀っ!!!
と、その無惨に襲い掛かる紅い鳥。

その発動で村田は自身の役割の終わりを察して少し距離を取る。

──ここで最後に筆頭の全型をおがめるたぁ最高の終わりだなっ
と、そんな村田の隣に立つどころかどかりと座り込んで、宇髄が言った。

え?え?確かに見てろとは言われたけど、そんな完全に寛いじゃう??
と村田はさすがに目を丸くするが、宇髄は
「たぶん…900年間受け継がれた四天王の奥義ももう錆兎で終わり、使える奴は出てこねえだろうし、見られんのはこれが最後だ。
がっつり見とかねえともったいないぜ?
まあ…あれで倒せなければあとは何をしても無駄だろうからな、じたばたしたって仕方ねえ」
と、村田を見上げてお前もここに座れとばかりにポンポンと自分の横の床を叩く。

「そんな最終奥義の始まりに手を貸せるなんざ、本当に剣士冥利に尽きるっつ~か、お前羨ましすぎだ」
と言われて、村田も改めてそう思う。

自分は本当に本来は一般隊士なのだ。
こんな華やかなおとぎ話の終幕で重要な役割を担うなんて我ながら現実感がない。

そんなやりとりの間も当然戦いは続いている。

驚いたことに無惨はおそらく全ての回復力を分散することを諦めて一本に集中することで太い触手を形成するとそれでかろうじて朱雀を受け止める。

じゅっ!と何か焦げるような音と共に触手の先端が焼け切れたが、紅い鳥は霧散。
しかしそれも予測の範囲だったらしい。
朱雀を打ちながら錆兎は無惨に向かってひた走っている。

そして続いて
──源氏武者式 神!弐の型 白虎っ!!!
との掛け声で放たれたのは白い虎。

さきほど甘露寺達が壊した壁の欠片などで粉塵をまき散らせながら右へ左へと相手の攻撃を交わしつつ敵に肉薄していく。

見た感じ、風版の流流舞いと言った雰囲気で、人相手なら目くらましには良いかもしれないが視覚だけに頼らない鬼の無惨に対してはどうなんだろう…と村田は息を飲んだ。

そんな村田の横で宇髄がのんびり解説していく。

「源氏武者式の型は参までは下準備みてえなもんだ。
朱雀で敵を威嚇して、白虎は相手の神経を狙って小さな剣戟をいれることで神経伝達を遅らせて回復や動きを阻害する。
朱雀まではな、そこそこ剣術を極めた奴が鍛えれば使えることはあるが、この白虎はそもそもがどこに神経が通ってんのかがわかんねえとどうにもなんねえから、気配で全てを悟れる特殊能力がなきゃ、絶対に使えねえ。
綱は能力があった。
でも綱の直系でもその特殊能力がある奴ぁそう輩出されねえからな。
錆兎は筆頭の家ン中でも数百年に一人の選ばれた剣士だ」

うわぁぁ…と、村田は今更ながら自分がやってきたことの重要性を悟って総毛だつ。

「ほら、次は参の型に入ったぞ。
参ノ型、青龍は蛇を基盤とした変幻自在の避けにくいうねる剣筋でな、あれで首まで確実に刃を持っていく。
普通ならな、間合いに入ってからがキツイんだが、その前の白虎が効いてて敵も動きが鈍ってるからな。
ま、照準を完全に持っていく合わせ技だ」

「…宇随さん…詳しいけど四天王の血筋だから見たことあるんです?」
と、ここに至ってようやく傍観者の自覚が出てきて村田が聞くと、宇髄は、ほとんど他人くらいの傍流だって言ったろ…と肩をすくめながらも、
「それでもな、寝物語に聞くのは源氏武者の話なんだわ。
絶対に自分がそこにたどり着かねえのはわかってんだけどな…まあ、ガキの頃は幼心に憧れたっつ~か…色々暗唱できるくらいには繰り返し聞かされたしごっこ遊びみたいなこともしたからなぁ…」
と、どこか懐かしそうな顔で言う。

そうこうしているうちに戦いの方は肆の型へ。

無惨の首を捉えた青い刀身はそこで
──源氏武者式 神…肆の型 玄武…!!
との声と共に色を赤く変えた。

硬いはずの無惨の首に紅い刀身が食い込んでいく。
そうして胴と離れた首…。
だが、今までの鬼と違って首が落ちても胴が崩れて行かない。

ああ…薬が効いてなお、やはり首を落とすことでは無惨は倒せないのか…
と、村田は青ざめた。

まだ夜明けまでにはだいぶ間がある。
それまで満身創痍の錆兎に持久戦をさせるのは厳しい。

それなら防御しか担うことは出来ないが少しでもっ!と立ち上がりかける村田に
──まあ慌てんなって。まだ終わっちゃいねえよ
と声をかけて宇髄がその腕をつかんで止めた。

そう言われてみてみれば、体が崩れて行かないことに錆兎は全く焦った表情を見せない。
ただ静かに刀を構え、何か集中でもするように目をつむった。

すると赤かった刀身は今度は多彩な色を見せ始める。
そうしてキラキラと光が刀に集まった瞬間っ!

──源氏武者式 神!奥義…麒麟っ!!
振り下ろした刀から解き放たれた光が無惨の胴を溶かしていく。

…フザケルナっ!フザケルナっ!ふざけるなぁあああ~~!!!
床に落ちたままの無惨の首が絶叫した。

崩れる胴…しかしそれと共になんと錆兎の手の刀もパキンっ!と音を立てて砕け散る。

それでもなんとか終わったか…と思ったが、村田は何かを感じて刀を抜きながら錆兎の方へと走り寄った。

完全に消えた胴…だが、まだ消えていない首がいきなり飛びあがってすでに手に刀の柄しか残っていない錆兎の喉元に向かって牙を剥く。

──水の呼吸 壱ノ型、水面斬りっ!!!

すぱ~ん!!!と村田の刀が無惨の頭を一刀両断した。

左右に分かれた無惨の頭は村田のことなど視界に入っていなかったのだろう。
──…雑魚がっ…!……
と、驚きと無念の表情を浮かべつつ、今度こそサラサラと砂となって宙に舞った。


──あ~…村田…助かった。本当にお前には最初から最後まで助けられてばかりだ…

とびかかってくる無惨に唖然として固まっていた錆兎はそう言ってふわりと笑う。

──びっ…びっくりしたぁ…
と、同じく固まっていたカナエもホッと息を吐き出して、他も次々硬直から解けて力を抜いた。

そうしてどこからかあがる笑い声。

──これで終わったんだよな?
──終わっただろっ。
──ああ、これで平和になったのね。

上がる歓声。
溢れ出る涙と笑顔。
こうして二度目の無惨戦は誰一人欠けることなく幕を下ろした…









0 件のコメント :

コメントを投稿