無惨がお館様の前に現れた頃、村田はお館様がおっしゃったように今日明日にでも決戦になるのならその前に腹ごしらえを…と、錆兎と夕飯を食べていた。
錆兎は昼間にお館様の座を辞したあと、義勇の好きな鮭大根を作って花柱屋敷を訪ね、そのあとに村田と夕飯の買い物をして帰る。
──…来たか…
と呟いた。
錆兎がそう言うから(…そうなのか…)と思いはしたが、村田には全くわからない。
炭治郎は匂いで、善逸は音で、そして錆兎は気配で常人にはわからぬ何かを感じるらしく、なかなか便利な能力だと思う。
──行くぞ、村田っ!
と、日輪刀を握る錆兎。
緊張感はあるが微塵も臆した様子を見せないのが、義勇ではないがすごいな、かっこいいなと思う。
村田自身は前世で一度は生きて乗り越えたはずの決戦も、またあの無惨に対峙するのだと思うと足が震えた。
すると錆兎がクスリと笑う。
──村田でも緊張するんだな。
──はあぁあ???
何故そうなるっ?!
俺はお前と違って一般人だよっ!…と声を大にして主張すると、錆兎は驚いたように目を丸くして、
「いや、お前の方が普通じゃないだろう。
俺は”そういう家”に生まれて戦うように育てられてもしばしば平静さを失くして死にかけたり動揺したりするけど、お前は特別にそういう訓練を受けて育ったわけでもないのにいつも冷静だから。
もうそれは才能だろう?」
などと言う。
ええ?
全然冷静じゃないんだけどぉぉ!
とさらに言いかけた時、
「あ…そろそろ行った方が良さそうだな。
珠世さんが準備を始めているようだ」
と、錆兎がやはり気配を察知したのか、そう言って会話を打ち切った。
そう、わかっている範囲で可能な限り犠牲を出さないことを目指している今生の戦いだが、唯一珠世だけは例外となる。
前世と同じく、珠世は鬼を人間に戻す、老化、分裂阻害、細胞破壊という4つの効果を持つ薬を薬に通じる胡蝶しのぶと共に研究して完成させていた。
これをどう無惨に仕込むか…となった時、やはり仕込み役の犠牲は避けられない…と、何度も何度も色々考えたのだが結局そう結論付けられる。
そうなると誰がその役割を担うかと言うと、人間ではすぐ死んでしまうので、鬼である珠世しか適任者がいなかった。
もとより珠世は無惨憎しで無惨を倒すことのみを生きがいにしてきたので、むしろ止めようとする面々を説得し、結局そこだけは前世と同じ展開と相成ったのである。
しかしながら前世ではそこに持ち込むまでにお館様ご一家が爆死するなどの無惨に対する目くらまし的な物があったのでそれをどうするか…という話になり、結果、錆兎が無惨と対峙することでその役割を担って時間を稼ぐことになっていた。
もちろん村田もその隙にお館様ご一家を煉獄槇寿郎と鱗滝左近次率いる隠集団に引き渡したあと、錆兎の元に戻って戦いに加わることになっている。
決戦開始直後のこの一連が、実はこの戦いの勝敗を決める一番重要な部分になるので、絶対に失敗は出来ない。
そう思えばまた緊張する村田だが、錆兎はそんな村田を振り返り、なんと
「…この、今回の決戦で一番重要で難しい役割を共に担うのが村田で良かった…。
義勇以外でこれを成功させられる相方はお前以外には考えられない」
などと笑って言うので、もう村田も泣き笑いだ。
「…まったくお前はぁ…そういうとこだぞ」
と思わず言うと、錆兎は
「俺は生きたい。
生きて義勇と腹の子と共に狭霧山で平和に暮らしたい。
だから協力してくれ」
と言うと、行くぞ!と、離れを飛び出て母屋に向かった。
誤変換報告です。「常任にはわからぬ」→「常人には…」かと(;´Д`)ご確認ください。あと、誤りではないのですが「決戦直後のこの一連が」→「決戦”開始”直後…」の方が正確な気がします^^;
返信削除ご指摘ありがとうございます。
削除修正しました😄