最後の柱合会議でそう決めたように、義勇が出産まで花柱屋敷にいて1人きりは寂しいだろうから…と理由付けて村田が自分の水柱屋敷に戻らず産屋敷邸の敷地内の錆兎の家に泊まるようになって半年ほど。
──錆兎ほどじゃないけど、村田もさすが水柱だけあるな。
と、錆兎以外には全く忖度しない義勇の口からそんな言葉が出たということは、まあかなり頑張ったほうなのだろう。
ちなみに…
──錆兎本人には教えないの?
と、村田が聞けば義勇からは
──錆兎が防御まで完璧になったら誰も必要とせずに一人で行ってしまうから…止める相手がいなくなってかえって危ない。
と、返ってきて、なるほど、と思った。
まさにそれが前世の最終選別の錆兎だったのだろう。
普通なら死なない。
でもあの手鬼のように正攻法なら勝てる相手でも思わぬ落とし穴があるものである。
あの時に義勇を連れて行っていなければ、錆兎は冷静さを失って勝てるはずの相手に殺されていただろう。
つまり、そういうことだ。
強さ的に必要がなくとも想定外のことが起きた時には誰か一緒に居た方がいい。
「村田に凪を教えたのはそれで錆兎を物理的に守るのもあるけど、他の意味でも錆兎を無事連れ帰るためだから。
錆兎がどう言おうと、俺からそれを教わるということはそのわけも含めて受け継ぐということだ。
わかってるな?」
と言う義勇は、なんだかいつものふわふわとした今生の義勇とは少し違って、前世の水柱の頃の強い意志を感じる気がする。
というか、村田は絶対に…それこそ錆兎が危なくなろうと、あるいは死のうと手を出すなと言われていることを知っているような言い方だと思う。
さて、どちらを優先したものか…と一瞬悩む村田に、義勇は
「錆兎を死なせたら俺は村田を恨むし子はこの世に残すが俺は錆兎の後を追う。
…錆兎にそう伝えておいてくれ」
とさらに追い打ちをかけてきた。
錆兎が敢えて自身の命よりも優先する考えがある…ということをおそらく義勇は何かで知ったのだろうと、その言葉で村田も悟る。
嘘は許さない…そんな目でこちらを見てくる義勇に、村田は諦めた。
「うん…わかった。
錆兎が危なくなったら俺が相手の鬼に土下座するよ。
倒す…というのと殺すというのは同義語じゃないからって説得をして、それでもダメなら諦めて俺から死ぬから」
戦えなくなるくらいの怪我を負えばそこで勝敗はついたと思うし、それなら治ってから再戦するか、生きて新たに戦えるほど強い子を作った方が長く戦いを楽しめる…そう説得してみよう。
少なくとも錆兎の相手と決められている上弦は、鬼狩りを滅ぼすことよりも強者と戦うことに意義を見出しているような感じなので、他の鬼よりはそれで説得されてくれる可能性がある気がする。
錆兎にそれを言っても絶対にそう口にはしないだろうし、錆兎の口からその言葉を言ったら言い訳だと鬼は納得しないだろうが、立会人の…つまり、二人の戦いに関しては第三者の村田から言えば、わずかばかり考えてくれるかもしれない。
まあそれ以前に錆兎が勝ってくれれば何も問題はないのだが…
とりあえずその日は帰ってから一応錆兎には義勇の言葉を伝えるだけは伝えて、いつものように安全な日中を過ごして落ち着かない夜を待つ。
いつに…ということは伝えられていなかったが、あとで聞いたところによると、お館様は決戦は村田の準備が出来た時に…という心づもりでいらしたらしい。
そうして村田の凪が満足のいく出来になったとある日の翌々日の昼間、錆兎と共に呼び出されて産屋敷邸の母屋でお館様のご家族と共に昼食を頂いている最中に本当になんでもないことのように、
──今日ここの場所の情報を流すからね。早ければ今夜にでも無惨がくるよ
と、お館様がまるで天気の話でもするようになんでもないことのようにそうおっしゃった。
そして…実際、そうなったのである。
その日の夜…無惨が産屋敷邸に姿を現したのだ。
いよいよ最終決戦ですね。
返信削除ですねっ!巻き戻ってからここを目指して頑張ってきた村田さんがどうなるか…いよいよです✨
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