村田の人生やり直し中_94_お邪魔虫の末路

──凪っ!!
と、義勇に教わったその水の呼吸の防御の型の最高峰の技を使ったのはほぼ条件反射だった。
しかし剣戟のようなもの以外にひやりと冷たい空気を感じて慌てて息を止めるとそれを避ける。

村田にはそれが何かはっきりわかっていて…でも今それをここで食らうことは予想だにしていなかった。

上弦の弐…童磨の攻撃…。
吸いこめば冷気で肺がやられる。

自分は避けたものの錆兎は大丈夫か?と思えば、なんと錆兎も村田と同じ行動を取っていた。

え?と思ったのは村田だけではない。

猗窩座がきょとんとした顔で
──お前もその技が使えるのか…
と錆兎に視線を向けて言う。

それに錆兎は苦笑した。

「一応一緒に育ってずっと共にいた兄弟弟子の義勇が編み出した技だから…見ていて覚えたが村田や義勇のと比べてみればわかるように、俺のは練度は高くはない」
「…それでも使えば多少は戦いも楽になっただろう?」
「いや…攻撃自体を消したり相手の動きを鈍らせる系は使いたくなかったんだ。
単純な力、攻撃重視で戦ってみたかった。
…俺の家は他の家を率いて貴人を守ることに重きを置いて戦わねばならない家だったから……過程よりも結果重視で色々と防御や搦め手も使わねばならなかったんだが…一度でいい、何もしがらみのない状態で正々堂々と力比べをしてみたかったんだ…」

最後にそう言ってしょげかえったように俯いた錆兎のその言葉に村田はうわあぁぁ~と思う。

村田は絶対に全力で全てを出し切って戦わねば無理だと思っていたのだが、錆兎はあれでも色々封印していたらしい。

…というか、楽しそうに見えたが本当にこの戦いを楽しんでいたのかっ!

まあ…さきほどから互いに本気で猗窩座とやりあっているのを目の当たりにした村田からすれば、確かに本気を出した錆兎の相手が出来るのなんて、上弦の鬼くらいかもしれないがと思わなくはないが…

──貴様は本当に志しの高い素晴らしい男だっ!!
と、その錆兎の言葉に猗窩座はもう大絶賛で満面の笑みを浮かべて頷いた。


──俺も全く同感だっ!男同士の戦いは力と力っ!正々堂々と行われるべきだっ!!
と、こちらはさらに熱くそう語ったあと、

──それを貴様はぁぁ~~!!!
と、ものすごい殺気と共にいきなり仲間のはずの童磨を張り倒した。

吹っ飛ぶ童磨。
めり込んだ壁がばらばらと崩れる。

人間ならそれで死んでそうな一撃だったが、鬼からすればじゃれ合い程度のものなのかもしれない。

──いたた…猗窩座殿、いきなりひどいなぁ…
と、普通にめり込んだ壁から出て立ち上がる童磨。

──死ねっ!神聖な戦いを邪魔する者は今すぐ死ねっ!!!
それにキレた猗窩座がまた攻撃を仕掛ける。

これ…どこまで本気なんだろう?
上弦の弐、参の両方を相手にするのはさすがに辛すぎだよな…。

そんな風に不安になる村田だが、錆兎は特に慌てることもなく、
──これは…どうなってるんだ?
と、普通に猗窩座に聞いている。

──違うっ!俺はちゃんと一対一で正々堂々と勝負をするつもりだっ!!
と、それに何故か猗窩座の方が慌てたように言ってきた。

うん、良かったよ。
とりあえず即上弦二人を相手にしなければならないと言うことにはならなさそうで本当に良かった…。

童磨はとにかく、猗窩座の方は童磨と共闘しようという素振りは微塵もなくて、村田はとりあえずホッとする。

しかし、しかしだ。
ここで問題なのは童磨が引く気がないであろうことだ。

弐と参なら弐の方が上なのだろう。
ということは…本気でやり合えば童磨の方が上ということだ。

そうなると自分たちは童磨と戦うことになるのか…?
いや、それ以前に童磨と戦うはずだった宇髄と伊黒と甘露寺はどうなった?
まさかこんな短時間にやられてしまったのか??!!

とりあえず上弦二人とやり合うという状況にはならないようだと少し安心したところで、まだまだ心配の種は尽きない。

──猗窩座殿が苦戦しているようだから、せっかく助勢にきてあげたのに…
──大きなお世話だっ!!俺達は正々堂々勝負すると決めているんだっ!!
──え~?!別に経過なんてどうでもいいじゃない。勝てばいいんだよ、勝てば。
──俺は貴様のそういうところが大嫌いだっ!!死ねっ!!!
──ひどいなぁ…俺は猗窩座殿にこんなに好意的に接しているのに。
──少しでも好意があるというなら、今ここで死ねっ!!

…と、この会話は猗窩座が一方的に仕掛けている攻撃を童磨が色々でのらりくらりとかわしながら交わされている。

そこでぽつねんとしている錆兎に村田はススっと歩み寄った。

「…どうする?これ…」
と村田が聞けば、
「…せっかく…防御とか結果とかを考えずに戦える最初で最後の機会だったのに…」
とうつむく錆兎。

いやいや、そんな場合じゃなくない?
と、村田も初めて見る明らかに拗ねている錆兎に、どう反応していいか困ってしまう。

そんな村田の前で錆兎がいきなり
──猗窩座っ!!
と、上弦の参に声をかけた。

すると猗窩座は相変わらず童磨に攻撃を仕掛けながら、
──すまん、少し待ってくれっ!こいつを殺したら戦いの続きをしよう!!
と、そんなこと言っていいのか?と思ってしまうような発言を返してくる。

それに童磨は笑いながら
──猗窩座殿、猗窩座殿、殺す相手が違うよ。俺は仲間でしょ。
と言うが
──陣営は同じだとしても貴様と仲間になった覚えなどないっ!気持ち悪いっ!!
と言い捨てる猗窩座。

──え~?ひどいなぁ。
とそれにもやはりなんだかからかうような笑みで答える童磨だが、そこで錆兎の口から出た
──そいつ…俺も殴りたい。協力していいか?
という言葉に、
──えっ??!!!
と、初めてその顔から笑みが消え、驚いたように目を丸くした。

そして…さらに続く
──さっき言った鬼狩りに秀でた源氏武者の絶対に勝ちに行くためのえげつない秘技でそいつを排除して、鬼も他の柱達も邪魔しにこないうちに戦いを再開したい。
と言う言葉に
──えっ?!えっ?!ちょっと待ってっ!!頼光四天王のとか、それダメだよっ!
と、完全に青ざめた。

──ほぉぉ?貴様でも嫌なものはあるんだな。いいぞ、加われ。
猗窩座は止めない。むしろ参戦を了承する。

──それは裏切り行為だよ、まずいでしょ?!
──格下の鬼や人間ごときにやられるような程度なら、あの方も貴様を必要とはせん。元々嫌われているだろう?
──え~?!!あれはあの方の照れ隠しで…
──その言葉をあの方が聞いたら、自らとどめを刺しにきそうだな。

それまでは半ばからかうように猗窩座の攻撃を受けていた童磨は、相手が本気だと悟ったのだろう。
自分の側も反撃に入ろうと扇を構えたが、そこでいきなり

──させんっ!!弐ノ型、白虎!!
と、錆兎が刀を手に童磨に斬りつけた。

朱雀以外の秘技を初めて見たが、細かな剣戟でそれほどダメージを受けているようには見えない。
村田は正直拍子抜けしたが、次の猗窩座の攻撃を食らった童磨を見た瞬間、それが間違いだと悟った。

それまでは肩を撃ち抜かれようが、よしんば攻撃が頭に入って頭半分吹き飛ばされようが瞬時に再生していた童磨だったが、今回攻撃が入って削られた左わき腹が蘇生していない。

いや、まったくしていないわけではないが、じわじわと本当にわずかずつしか蘇生しなくなっている。

え?と思ったのは童磨もらしい。

──なんか体全体が動きにくい感じなんだけど……
と、笑顔を崩さずにいるものの青ざめていく。

──動きを封じる系は使えなくはないが使うと楽しくはなくなる。
──なるほど、確かにそうだ。

これが錆兎がさきほど言っていた、戦いを楽しむ時に使いたくない、絶対に結果を引き出さねばならない時に使う技の一つなのだろう。

前世では童磨を弱体化するために藤の花を摂取し続けて自らを毒を持つ体にした胡蝶しのぶが自分を童磨に食わせるという壮絶な方法を取ったのだが、どうやっているのかわからないが、剣技でこんなことが出来るのに驚いてしまう。

というか…こんなことが出来るなら錆兎を童磨にぶつけた方が良かったんじゃないだろうか…と一瞬思うが、猗窩座と錆兎は互いに互いと戦うのを楽しみにしていたようなので、それは無理だったのか…。

もう完全に命の危険は去ったとみて、のんきにそんなことを考えていた村田の目の前で、猗窩座に足を吹き飛ばされて完全に動けなくなった童磨は、錆兎の水の呼吸の基礎の基礎、水面斬りであっけなく首を跳ね飛ばされた。








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