kmt 寮生は姫君がお好き
──お前は実家を見捨てるつもりか?! 心の中で頼りにしていた相手から優しく励まされたら善逸も立ち直るのかもしれない… そんな期待を胸に彼の籠っている部屋に案内した不死川の目の前で錆兎の口から出たのは耳がビリビリするくらいデカい声での叱責だった。
──実弥、銀狼の皇帝が来たけど… ──急いで通してくれぇっ!丁重になァっ!!
──おら、寮生の康介の実家からの差し入れ品だぞ、遠慮せず食えよ ──ううん、いいよ…食べたくない…良ければ不死川さん食べて?
「とりあえず…現状、資金も人材も心配なしで今後も桑島財閥に超恩売れるってお得じゃねえか?」
──善逸の実家を潰すのは避けたいところじゃなぁ… 次の日、学園を休んだ不死川が一足先に入手してきた映像を見終わってため息交じりに呟く桑島老。
数日後…銀狼寮のダイニングでは古今東西のご馳走が並んだ戦勝祝いのパーティーが開かれていた。
これでようやく放免か…と思えば、そうはいかないようだった。 ──でも、やったこたぁ、消えねえよなァ?! と、余計なことを言う不死川。 ほんっとに忌々しい男だ!と亜子は内心舌打ちをする。
ひどく打ちのめされた気分で退散するところだった亜子だが、話はそれでは終わらなかったようだ。
──…どうして…? 言ってることが違うじゃない…と、自分でもどうにもならないと思いつつ口を開く亜子。 ──違わないと思うが? と自寮の姫君を片手で抱きしめながら少しニヒルな笑みを浮かべるの信じられないくらいカッコいい。 これが手に入らないなんてありえない。 この際他の女がどうとか...
──確かに姫君制度がバカバカしいと思うのはわかる しばらく考えた末に錆兎の口から出てきたのはとんでもない言葉だった。 そしてそれは亜子の気持ちを浮上させ、義勇を絶望の淵へと叩き込んだ。 何か言いたげな不死川は無一郎が目で制し、全員かたずをのんで錆兎の次の言葉を待つ。
──とりあえ双方の言い分を聞こうか。 ゆったりと上座にあるソファに腰をかける銀狼寮皇帝錆兎。 金竜寮から戻ってすぐ取るものもとりあえずこちらに駆け付けたらしく、クラシカルな銀の鎖帷子にマントを羽織ったその姿は、まるでファンタジーの世界から抜け出して来たように煌びやかにして麗しい。
銀狼寮の姫君を遠回しに非難したら、何故か金狼寮の寮長がキレた。 激昂して掴まれた手首は痛かったが、我慢できないほどではない。 JSコーポレーションからの資料によると、金狼寮の寮長の不死川は貧しい家の将来を背負った奨学生ということだから、ひどい暴力を振るって退学になるようなことは絶...
──てっめえ、いい加減黙りやがれっ!! 必死に止める善逸に怪我をさせないで振り払う程度には、不死川の腕力が勝っていた。 そして振り払われた善逸が再度掴む間もなく亜子に掴みかかる。
新任教師柏木亜子は良く思われていない人物らしい。 みんな義勇に直接は言わないが、錆兎や炭治郎、その他周りの言葉や声音でなんとなくわかってしまう。
想像とは微妙に違う… 亜子は戸惑っていた。
新任教師らしき女性の腕をつかむ不死川と怒った顔の炭治郎。 双方が義勇の顔を見て、しまった!という顔をするのとは対照的に、女性の方はなんだかホッとしたような嬉しそうな表情だ。
──え?な、なにっ?!! いきなり聞こえて来た悲鳴の声は高くて、しかし声変わり前の少年のそれとは明らかに違う。 つまり、この学園にいるたった一人の女性、新任の女性教師のものと思われる。
こうして無一郎が抜けて、義勇と善逸、そして炭治郎の4人でお茶会を再開する。 そうして20分ほど経った頃だろうか…。 「こんな時間に何の用事だったんだろうね?」 と、不安を隠せない様子の善逸。
その夜、義勇は炭治郎の部屋で過ごしていた。 いつもなら当然自室にいる時間だが、今日は錆兎が金竜の姫君に助力を頼まれて金竜を混乱に陥れている金竜の寮長小郎の征伐に行っているので、一人は危ないと錆兎から炭治郎に預けられているのである。
たとえ逆ハーどころか攻略対象者全員に逃げられようと、このままでは終われないっ! 絶対に…絶対に一矢は報いるっ!!