kmt 寮生は姫君がお好き
「お前、そんな無責任ならもう寮長をやめろっ!」 鬼軍曹と恐れられている銀狼寮の寮長錆兎の強い怒りを感じさせる声と言葉にそれまで不自然とも思えるほどの笑顔があふれていた辺り一帯の空気が凍り付いた。
「…おい、村田を知らないか?」 高等部の校舎に戻った錆兎は銀竜の寮長である村田を見なかったか、まずは同学年の自分の教室の自寮生達に尋ねる。 すると寮生達はなんだか意味ありげに顔を見合わせた。
あれだけ警戒していたのにあっけないほど平和な時間が過ぎ、いつものように弁当を手に義勇を迎えに中等部に向かう錆兎。 授業終了が5分ほど長引いてしまったので、お腹を空かせているかもしれないと思えば自然と足も早まっていく。 まあ、いつもはこの時間は義勇を錆兎に任せて、炭治郎はさっさと食...
今日は自寮の姫君が特に可愛い。 もちろん我らが姫君はいついかなる時も世界で一番可愛いが、今日は特別だ。 なにしろ1週間ぶりの登校である。 錆兎が毎日続けている姫君のお手入れにも力が入るというものだ。
ぜひ姫君に献上したい物があるので直接会って話をしたいという茂部太郎の要望で、錆兎は自分の方が彼の部屋に出向く。
寮長錆兎は目に見えて不機嫌だった。 姫君は今ここには居ない。 だからそんな素の感情を表に出せるのだ。 居たら内心機嫌が悪かろうと絶対にそんな素振りを見せる彼ではない。
──射人っ、仁っ、届いたぞっ!! 茂部太郎が通う藤襲学園は二期制なので、前期と後期の間に秋休みと言う少しばかり長い休みがある。
「義勇、疲れただろう? 浴槽に湯を張って疲れの取れるハーブ系のバスソルト入れたから、ゆっくり入ってこいよ」 錆兎は寮の部屋についてまず、義勇の好きな紅茶を淹れてやり、それを飲んでいる間に風呂の用意をして着替えを用意する。
村田から金竜寮長が虎の寮長組に捉まったと連絡があったのは、それから十数分後のことだった。
錆兎が今回ずっとしていた銀狼寮の寮生が揃いで身につけている黒地に銀の狼の絵柄のついた手袋を外し、真っ白な花嫁の衣装とはデザインは全く同じだが色違いの淡いブルーの衣装を着たメイドのヴェールをめくる。
とりあえずあとは自軍陣地にたどり着いて一休みだ。 虎2寮は金竜に出し抜かれて姫君のブレスを奪われた上に錆兎に寮長のブレスまで差し出した時点で全ブレスレットを失って失格。 金狼と銀竜は同盟を裏切れない理由があるので、問題なし。
え?え?何故だっ?? 錆兎は珍しく脳内パニックになって、しかしすぐ武器に手をやる。 それに苦笑して、宇髄がまず 「とりあえず今回は将軍とやり合う気はねえから、かかってくんなよ?」 と、両手をあげた。
この姫君戦争の最大の難関は、3年の2寮の寮長が去った時点でクリアしたと言ってもいい。 1対1ならどの寮長が来ても負ける気はしないし…と、錆兎はとりあえず胸をなでおろした。 とりあえず銀竜の寮長村田が銀狼生の補佐を受けながら、こっそり金竜の動向を探っているはずである。 なので錆兎は...
錆兎が全寮長の中で一番手ごわいと思っているのが銀の虎宇髄だ。 まずデカい。 ウェイトがあるということは、それだけ攻撃も痛い。 単純な力比べとなれば、錆兎よりも強いだろう。
──さあて、そろそろ先輩方が迎撃に来るから、花嫁部隊は俺の後ろなっ! 錆兎がそう指示すると錆兎の背後に1人寮生が付き、そのあとに花嫁と5人のメイド、そしてそれを囲むように寮生達という陣営が出来る。
──将軍発見! 3年生陣地に攻めて来るならこの経路だろうと予測していたあたりで待っていると、少し先に待機させていた自寮である銀虎寮の斥候が戻ってきつつそう報告をする。
──じゃ、そういうことで行ってくる。 と、青銀のマントを羽織った錆兎が、金の揃いの手袋をした金狼の兵とメイド部隊に囲まれた花嫁を引き連れて陣地を後にする。 敬礼してそれを見送る炭治郎を始めとする銀狼寮の寮生。 さらに奥の部屋には金狼の寮長不死川と姫君の善逸、そして銀竜の姫君の無一...
──結局、上級生vs下級生って感じになったかぁ 当日…銀虎寮の寮長宇髄がやれやれと言った風に肩をすくめつつ、銀虎寮の寮長に代々伝わるマントをパサリと羽織る。
作戦が決まってからは実に忙しかった。 まずは陣地になる砦の設計から入らねばならない。
──……錆兎のそばがいい… 無一郎と不死川と炭治郎と4人で細々したことを決めて、最終的に決定してから義勇に今回のことを伝えると、ぎゅっと錆兎の袖口を掴んでそう言って俯かれた。