寮生は姫君がお好き1046_その頃の姫君達

その夜、義勇は炭治郎の部屋で過ごしていた。
いつもなら当然自室にいる時間だが、今日は錆兎が金竜の姫君に助力を頼まれて金竜を混乱に陥れている金竜の寮長小郎の征伐に行っているので、一人は危ないと錆兎から炭治郎に預けられているのである。

女性や子どもじゃないんだから…と、普通の男子学生なら思うところなのだろう。
だが義勇にとって錆兎の判断は絶対的に正しい。
なので、『さすが錆兎!すべてにおいて完璧に細やかだ』と感心している。

そして彼を預かることになった炭治郎もやはり、幼い頃からずっと目標にしてきた兄弟子の言うことは絶対に正しい!という人間なので、二人で『さすが錆兎だなっ!』と語り合いつつ、和やかにお茶を飲んでいた。

そしてそこにもう一人。
本来なら自寮の寮長の素晴らしさを語る二人に冷ややかな気持ちを持っても不思議ではない他寮の姫君。
そう、金狼寮の我妻善逸である。

しかし彼も彼の寮の寮長も外部生な上、色々と自寮で身の安全を図るのが難しいのもあって、元々同学年の銀狼寮との距離が近いし、むしろ合併吸収してくれても構わないと思っているくらいなので、
「そうだよねぇぇ。銀狼寮は寮長強くて安心感半端ないよね」
と、寮長大好きっこの同級生二人に頷いてみせるのだった。

もちろん、最初は色々誤解があって銀狼寮に配属されたかったと泣き叫んだ善逸も、今では自寮の寮長の不死川のこともおおいに評価している。

不死川は粗暴な言葉や態度とは裏腹に気の優しい男で、色々事情があって命を狙われることのある善逸の事を姫君としてというよりは後輩として守ろうとしてくれているのは知っている。

だが不死川自身、実家が一般人どころか父親がいない貧しい家で、特待生としてこの学校に入ってきているため、いち高校生以上の力があるわけではない。
なので頼りにはしているのだが同時に無理をさせて申し訳ないという気持ちもあった。

その点、銀狼寮の寮長は本人の能力的に藤襲学園一らしいし同時に実家も太く、色々総合して学園一の寮長で余裕もあるので、できれば抱えきれる以上の負担を負わせてしまっている自寮の寮長である不死川の重荷を少し持ってもらえたらありがたいと、善逸は日々思っている。

そして銀狼寮の寮長の錆兎は気の良い男で実際に何度も不死川と善逸を助けてくれているので、銀狼寮の同級生たちが彼を誉めるのを全肯定する理由はあっても、否定する理由など善逸には微塵もないのであった。

ということで、心の底から二人の話を肯定する。
思いっきり頷く。

自分達の愛する皇帝を否定されない限りは彼らはとても良い友人で、善逸自身も反骨精神なんて言葉は辞書にない平和主義者なので、否定よりは肯定している方が精神衛生上よろしい。

こうして3人で、銀狼寮の寮長様の強さ賢さ素晴らしさを語りながら大変和やかな時間を過ごしていた。


ところが、本来は不死川が錆兎に勉強を教わる間に善逸を一人にしておくのは心配だからと連れて来られたはずの銀狼寮で、思わぬ事件が舞い込んだ。

なんと金竜の姫君を金竜寮に居たら身の危険が生じると案じた中等部生達が決死の覚悟で銀狼寮に逃がして来たらしい。

元々治外法権的なものが多い学園ではあるが、それでも学生の最低限の安全は保障されているはずだったのだが、今回はかなり危険な状況が起きているということで、なんと残ったため危険に晒されている金竜寮の中等部生達を救出するために、錆兎が銀狼寮の寮生達と共に完全武装で出向くことになったのだ。

そういう事情なので、学生の安全を考慮に入れない相手に敵対するということは、その矛先が銀狼寮にも向く可能性があるため、その御旗である姫君の義勇の居るここは現在、決して安全とは言えなくなった。

が、そこはさすがに幼稚舎からの藤襲生の銀狼寮の寮長様の人脈は太い。
そんなややもすれば緊張するような状況でも色々と手配して、先輩である銀竜寮の無一郎が一緒に居てくれることになっていて、そうなると、姫君が他寮に一人というわけにも行かず、銀竜寮の寮長を始めとする寮生全員が護衛として現在銀狼寮に滞在することになった。

すごいな、もうここは世界で一番安全な寮だよね…と、寮長が不在になっても固められる護衛に善逸は感心を通り越して感動する。

ということで、さきほどまで3人でのお茶会だったのだが、無一郎が加わって4人でのお茶会と相成った。

もちろん銀竜の寮長の村田と金狼の寮長の不死川、そして全銀竜寮生が護衛として銀狼寮を固めている状況でだ。


そうして珍しいメンツで歓談していると、少し前に来客が来た。

なんと今度新しく赴任してきた噂の新人女教師が銀狼寮の姫君に…という話だったのだが、そこで応じようと立ち上がりかける義勇を無一郎が止める。

「義勇を外部の人間と接触させないって錆兎と約束してるからね」
と難色を示されて、義勇はホッとした顔をした。

「…ごめん…お願いしていいかな?」
と義勇が言い終わるのを待たずに
「いいよ。約束だからね。3人ここを離れないようにね」
と1年とは言えど先輩らしい様子で立ち上がる無一郎。

そして
──油断ならない女性だからね…
と、どこか冷やりとするような笑みを浮かべて部屋を出て行った。










2 件のコメント :

  1. 2ヶ所ほど誤変換報告です^^;💦最初の善逸のところ「多寮の姫君」他寮の~」「気の優しい男手」→「~男で」お暇な時にご確認ください(*- -)(*_ _)ペコリ

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    1. ご報告ありがとうございます。修正しました😀

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