寮生は姫君がお好き1045_捨て身の復讐

たとえ逆ハーどころか攻略対象者全員に逃げられようと、このままでは終われないっ!
絶対に…絶対に一矢は報いるっ!!

亜子も大概にこじらせていたコンプレックスを抱えていて、それがありえない原動力になっていた。

ドアの傍には不死川。
これを正攻法ですり抜けるのは難しい。

…ということで…本人が役にたつ気がなかったとしても役にたってもらう!!
とばかりに亜子はつかつかと真っ直ぐ不死川に歩み寄ると、若干警戒の体制を見せる不死川に
──これっ!!
と宇髄の携帯を差し出した。

──へ?
といきなりのその行動に戸惑う不死川にどきっぱり
──宇髄君の携帯っ!私のは彼が持ってるから連絡とって話を聞いて。誤解だってわかるからっ
と言うと、不死川は戸惑った表情を見せながらもそれを受け取って連絡先の中から亜子のアドレスを探す。

その一瞬の隙をついて亜子は開いたドアの隙間から身をすり抜けさせて廊下に走り出た。

うおっ!!
と小さな声をあげ、不死川も即反応する。
即亜子を追ってパシッとその腕をつかむと、亜子は大きな悲鳴をあげた。

それは助けを呼ぶと言う意味では全く意味のない行動である。
だが亜子の目的は別にあった。

罪もないか弱い女性の自分が大声を出さざるを得ないようなひどい状況にあっている…それを銀狼の姫君に認知させること。

万が一、彼が何も知らなくて善良な人間だったら、自分のせいで亜子がひどい目に遭っているということに少なからず心を痛めるだろうし、おそらくそうだろうが、嫌な奴だったとしても自分のせいでそうなっていることを黙認すればそういうことを平気で黙認するようなひどい奴なのだと罵ってやる。

そうすれば最終的にこの学園を出てこの狂った制度から離れて正気に戻った学生達がいつの日にか彼のことを思いだした時に、ああ、そう言えばそんなことのできるひどい奴だったんだなと思う人間だって出てくるはずだ。

そうすれば彼の評価に一片の染みくらいは残せるだろう。

どうせ自分には何も残らないなら、黙って消えたりはしない。


以前の先輩の時は亜子があの女からは糾弾されず何もされず、かかわりを持たれなかったがために、あの女の人生には何も傷を残せなかった。

だから今回こそは幸せを掠め取られた復讐を果たすのだ。
亜子の悲鳴は悲鳴であると同時に、そんな思いを込めた雄たけびでもあった。

そして神様はそんな哀れな亜子の心の声を拾ってくれたらしい。

非情に幸運なことに亜子が居た廊下はちょうど姫君が居る炭治郎の部屋の下あたりだったらしく、亜子の悲鳴は銀狼寮の姫君の耳に届いたのである。












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