ほとんどホラーだった。
綺麗で可愛く可憐な容姿なだけに、余計にこの状況での満面の笑みが恐ろしい。
──話すこと…ないみたいだね?
と言うと、華奢な手で銀の呼び鈴をチリンチリンと鳴らした。
それで開いたドアから入ってきた人物にも見覚えがある。
JSコーポレーションの資料にあった金狼寮の寮長、不死川実弥だ。
──終わったかァ?
とこちらも不機嫌そうではあるが、まあ冷ややかな笑顔よりはいい。
だがまあそれでも彼の登場で事態は悪くはなっても良くはならなさそうだ。
「うん。俺とはお話したくないみたい。
俺の方は話しておきたいことは話したけどね。
錆兎が戻るまでに全て済ませて移送しないとだし、そっちも何かあるなら今のうちだよ?」
なんだか他寮の寮長と副寮長と言うよりは、まるで友人か仲間…いや、もっと言うなら共犯者のような雰囲気の二人。
無一郎の言葉に不死川は
「あ~…錆兎は…つか、銀狼寮の面々は正道大好きだから?
こっちはこっちでやっとかねえと?」
と肩をすくめた。
そうか…さっきまでは錆兎が戻ってくるまでに急いで…と思っていたが、実は彼が居ない時の方が危険だったのか…と亜子は今更ながら知って自分の浅はかさを後悔する。
せめてなんとか味方の宇髄に連絡を取れないだろうか…
とマントの内ポケットにこっそり忍ばせている彼のスマホを指先で探ると、そんな亜子の動きには当たり前に気づいているのだろう。
無一郎がおかしそうに笑って言った。
「おっけ~。
別に宇髄先輩にTelしてもノープロブレムだよ?」
何故かスマホが宇髄のものだと言うことも知っているようだが、もう色々に構ってはいられない。
彼らの気が変わってストップがかかる前に、と、もう隠すこともせずにスマホから自分が宇髄に渡したスマホへと電話をかけるが、亜子は気づいていなかった。
確かに宇髄が言った銀狼寮の錆兎が寮生を率いて金竜に向かっているというのは正しかったが、それがイコールほとんど護衛が居ないわけではないことは言わずにミスリードを誘っていたのだと…。
そして電話をかけてみて、そのことを知る。
『あ~、そうだな。
錆兎がな、自分が居られない分、普通よりも手厚く護衛を集めたからなあ。
もともと金狼の寮長の不死川は錆兎に対して弱みがあってな、絶対に裏切れないからそういう意味では学園一信用できる護衛になるし、銀竜の無一郎は実は学園で一番食えない敵に回したらやばい姫でな。
でも同じく錆兎に対しては弱みあって忠実なんだよ。
金狼の中にはスパイが居て寮生全員を信用はできないから、不死川は寮生置いてきてるけど、銀竜は姫君がそういうことで命じてるから今回は寮を挙げての全面協力だしな。
なにより錆兎がガキの頃から自ら鍛えた弟弟子の炭治郎が銀狼のお姫ちゃんの番犬として詰めてるし、金銀の虎全員で攻めたとしても、あいつが引き返すまでにお姫ちゃん攻撃するのは無理だな』
と、当たり前に語る宇髄。
「どうしてそれをあの時言ってくれなかったのよっ!!」
と亜子は激昂するも、後方で聞こえる
──宇髄、急用か?
と不思議そうな錆兎の声に、
──はいはい、ちょっと待ってくれ。まあたいしたことねえ野暮用だ
…と、答えつつ
『嘘はついてないぜ?錆兎が居ないのはホントだっただろ?
ということで俺はここいらで一発後輩にいいとこ見せて恩売っとかなきゃだからな、切るぜ?』
と、宇髄は亜子にそれ以上言い返す間を与えずに通話を打ち切った。
な、なによっ!なんなのよっ!!
私はただ企業に協力する代わりに玉の輿に乗るはずだったのにっ!!
男子中学生なんかに負けるのっ?!
ヒロインなのにっ?!!!
こんなのおかしいわよっ!!!
さきほどまでの恐怖にわずかばかり怒りが勝って、亜子はぎゅっと拳を握り締めた。
負けないっ!!
いや、勝てないかもしれないけど、ただでは負けないっ!!
彼女の鬱屈した怒りと言うのはいつだって周りに理解されることはない。
そして今回、同席している二人は彼女は宇髄の言葉に絶望して諦めるものだと信じていた。
が、その予想を覆した彼女は、彼らの想定外の行動に出るのである。
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