──おら、寮生の康介の実家からの差し入れ品だぞ、遠慮せず食えよ
──ううん、いいよ…食べたくない…良ければ不死川さん食べて?
知ったら落ち込むだろうな…とは思ってはいたのだが、想像以上に落ち込んだらしく、ありえないことにウナギが大好物のはずの善逸が寮生の実家から大量に差し入れられた高級ウナギも食わずに自室に引きこもっている。
──俺はこの学園を乗っ取ろうとしてた悪の組織の一員だったんだね…
そんな善逸の言い分は不死川からすると子どもじみていて滑稽さすら感じるわけなのだが、考えてみれば去年まではランドセルを背負った小学生だったわけなのだから、子どもで当たり前なのだ。
普段は善逸も曲がりなりにも姫君なので体型の維持のため食う量や時間を管理することに苦労をしている不死川ではあるのだが、食わなくなれば食わなくなるで問題なので、(あ~…面倒くせっ!)と心の中で毒づいてみる。
が、なんだか自分まで心の奥底でズキズキとした痛みがあって食欲がなくなってしまった。
まだ学生の身で大黒柱の父親を亡くし、自分の身どころか大勢いる弟妹の生活まで背負わなければならない自分の人生を振り返れば、善逸は万が一今回のことで有力なOB達の勢力からはじかれたとしても桑島財閥からの保護はあって何不自由なく暮らせるんだから贅沢だろうと、そんな感傷を振り切るように考えてみるのだが、心の痛みは消えはしない。
義勇への説明と錆兎への説得は無一郎に任せることにしたのだが、不死川はそれも少し後悔し始めた。
正直、誰かと協調して動くのは苦手だ。
他人に任せて待つのも苦手だし、大抵のことは自分でやった方が早い。
母親に負担をかけないために、幼い弟妹に不安を抱かせないために、自分が四苦八苦しているところは極力見せないように…と、不死川はそうやって生きてきたのだ。
今回に関して言えば、錆兎の説得だけならもう自分がやってしまっても良かったのだが、義勇を動かすということになると、彼とそこまでの関係性が作れてない。
だから無一郎に任せることになったのだが、もう今回は仕方ないにしても、今後善逸が落ち込んだり何か暴走したりするのを宥めるのに義勇を使うのが一番なら、自分も彼にその手のことを依頼できるくらいには親しい関係を作っていこう…と、不死川は少しばかり遅く感じる無一郎の対応にややイライラしながら、そう思った。
自分が一緒に居ても善逸は立ち直るわけではない。
そう割り切って不死川は彼を寝室に残してリビングへ。
そして善逸の実家自体がOB達の攻撃の的にならないよう、そちらは錆兎を通して自分達も今回の諸々の功労者であるということを広めてもらうため、依頼する文面を考える。
そう、不死川がしなければならないのは善逸のお守だけではない。
彼に最終的に継がせられるよう、彼の実家を残す方法を模索することも、桑島老から与えられた仕事なのである。
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