寮生は姫君がお好き1061_裏取引

「とりあえず…現状、資金も人材も心配なしで今後も桑島財閥に超恩売れるってお得じゃねえか?」

不死川がそう持ち掛けているのは錆兎ではない。
そう、渡辺家は金では動かない。
人脈もあるし、後ろには産屋敷財閥が控えている。
だから桑島財閥の助力など必要ない。
そんな条件では動いてはくれないだろう。

それでも自分だけのことなら付き合いの長い友人ということもあるし不死川が泣きつけば助けてはくれるだろうが、こと、姫君まで巻き込むとなると、問答無用でシャットアウトされるのは目に見えている。

…ということで、錆兎に直接交渉は時間の無駄だとばかりに不死川が向かった先は、その渡辺家が全く目もくれないであろう条件を喉から手が出るほど欲しがっている相手…銀竜の姫君、無一郎の所である。


今の時点で創始者の孫の一人だというところまでは明かしているが、学園の理事長だというところまで明かすかどうかはまだ迷い中らしい。
それを明かしてしまえば、まず学園での影響力を欲している全ての人間の攻撃の対象になるが、彼にはそんな輩から自らの身を守るための後ろ盾がない。

もちろん学園の理事ともなればOB達は保護してくれるだろうが、彼らとて一枚岩ではないので、自らが理想とする学園のために協力してくれるだけで、無一郎個人に対して協力するわけではない。
つまり…その意向に反する学園運営をすれば、逆に敵対される可能性もあるのだ。
なので無一郎は学園の味方ではなく自分の味方を欲している。
桑島財閥の後ろ盾というのは、そんな彼から見ると何より魅力的に映るだろう。

ということで…錆兎と直接交渉よりは与しやすそうな、無一郎から味方につけて、義勇とも仲が良く交渉も上手い彼に義勇の方から落としてもらうのが確実だ。

そう考えて不死川は無一郎を訪ねたというわけなのである。

そして無一郎の方もどうやらそんな不死川の事情を察して待ち構えていたようだ。
錆兎を訪ねる時によくそうするように、夜中にこっそりと庭木伝いに窓を叩けば、
──そろそろ来る頃かと思った。
と笑顔で窓を開けてくれる。

そうしてそこで交渉を持ち掛ける不死川。
もちろん無一郎の側も異論はない。

「じゃあ、まずは義勇に事情を話さないとね」
と、にこやかに言い放った。









0 件のコメント :

コメントを投稿