──…どうして…?
言ってることが違うじゃない…と、自分でもどうにもならないと思いつつ口を開く亜子。
──違わないと思うが?
と自寮の姫君を片手で抱きしめながら少しニヒルな笑みを浮かべるの信じられないくらいカッコいい。
これが手に入らないなんてありえない。
この際他の女がどうとか人生の勝者にとか、そんなことはもうどうでも良かった。
感情的にどうしても彼が欲しい。
どうやっても手に入らないの?絶対に?!
気を抜くと泣いてしまいそうだ。
亜子はそれを堪えようとグッと唇をかみしめる。
涙は女の武器…という持論の一つもこの時は頭から抜け落ちてしまっていた。
──姫君制度…ばかばかしいって…
そう、彼はそう言ったのだ。
己が言ったことには責任を持て。
そして自分と結婚しろ!
とそんな思いを込めてなんとか睨みつけると、
──そう思う奴がいるのは理解すると言っただけで、俺が、とは言ってないぞ?
などと彼はもう腹の立つくらいカッコいい笑みを浮かべて言う。
そうして姫君に視線を落として微笑みかけた。
そんな風に下を向くと、顔立ちはたいそう男らしいのに、睫毛が女性からしても羨ましいくらい濃く長いことに気づく。
こんなシチュエーションで気づきたくはなかった。
あの憎らしい姫君の居る場所で彼にああやって優しく微笑みかけられて気づきたかった。
なのになぜ彼が微笑みかけるのは自分ではなくあの憎らしい中等部生なんだろうか…。
そんなことを思いつつ言葉を探す亜子に錆兎はさらにとどめを刺して来る。
「ついでに言うならば…義勇と出会うまでは姫君制度については寮や寮生の管理の手段として非常に有用だとは思っていたが、感情的なものはなかった。
ああ、制度自体には今もないな。
姫君制度だからじゃない。
義勇を守るのに姫君制度が非常に有用な制度だとは思っている。
俺は寮長だしな?
甘やかし放題だ」
と言うと、姫君の髪を一房指先ですくって、チュッとリップ音をさせて口づける姿に胸がかきむしられる思いだ。
悔しい、悔しい!妬ましいっ!!
…でもどうすることも出来ない…
癇癪を起すことすらできない現状に、亜子は胃がキリキリする思いだ。
こうしてただ黙って唇をかみしめるしかない亜子に、錆兎は、もういいな?と言うと、
「ということで、姫君制度についての柏木教諭の心配は杞憂だったということで納得していただけだと思う。
射人、お客様がお帰りだ。
門までお見送りしろ」
と、まるで影か空気のように存在感が欠片もなく傍らに立つモブ三銃士の一人に命じる。
それに敬礼で応えると、射人は今度は亜子の隣に移動して彼女に手を貸して立たせると、
「お送りします」
と、廊下に続くドアの方へと誘導した。
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