──とりあえ双方の言い分を聞こうか。
ゆったりと上座にあるソファに腰をかける銀狼寮皇帝錆兎。
金竜寮から戻ってすぐ取るものもとりあえずこちらに駆け付けたらしく、クラシカルな銀の鎖帷子にマントを羽織ったその姿は、まるでファンタジーの世界から抜け出して来たように煌びやかにして麗しい。
宇髄は確かにすさまじくセレブではあるが、この圧倒的に特別にして唯一無二のノーブル感はやはりこの銀狼寮の皇帝を置いて他にない。
この青年を手に入れることができたなら、間違いなく頂点、勝ち組だ。
と、そんなことを考えながら、亜子は浮かれた気持ちを見せないように、涙をぬぐうふりをしてハンカチで顔を覆う。
そんな亜子の様子に不死川は苛立ったように
──ウソ泣きなんてしてんじゃねえっ!!
と身を乗り出しかけるが、それを隣に座った善逸が必死に縋りつくように止めると、錆兎も
──実弥、騒々しいぞ。
と手で軽く制するような仕草をして言った。
善逸はどうでもいいが、錆兎が亜子の敵である不死川を止めてくれた!と、その事実が亜子の気持ちを上昇させる。
これはイケるかも!!
そう思って、
──とりあえず柏木教諭の言い分から。
と、この場の絶対者である…そして亜子の未来の夫になる予定のこのまさに皇帝の名にふさわしい青年が言うのに促され、亜子はくすん、くすんと鼻をすすりながら訴えることにした。
いきなり男子校に赴任になって戸惑っていたこと。
そこで何もしていないのに敵対心のようなものを示されて不安になったこと。
好意的に接してくれる学生いわく、その敵対心の根底にあるものは、この学園独自の姫君制度にあり、副寮長を姫君として敬わなければならないため、本当の女性が学園に入ってくることでその制度を軽んじられたりすることを嫌う学生がいるからだということ。
そして…成績にも関わってくるため、その制度に疑問を持っていても表立って異議を唱えられるものが居ないということ。
そんな学業とは全く関係のないところでの趣味的な制度を本当は廃して欲しいと思っている学生が多い事。
それが多くの学生の総意だとするならば、少しでも気持ちを汲んでやりたいと思って、とりあえず寮長や姫君から話を聞いたり、状況によっては説得を試みようと思ったこと。
そして…その一環として銀狼寮を訪ねてその話をしたらいきなり不死川にキレられて暴力を振るわれそうになったこと。
亜子はそんなことを涙ながらに訴えた。
途中不死川が口をはさみそうになると、
──順に話を聞くと言っているだろう。柏木教諭の話が終わるまでは口をはさむな!
と錆兎がそれを制してくれたので、正直、これはイケるのでは?!と亜子は期待する。
そう言われた時の不死川の悔しそうな顔を見るとスッとした。
これまでは邪魔が入ってもどうしようもなかったのに、これからはずっと錆兎がこうしてかばって守ってくれるのだと思えば、心が浮き立つ。
もちろんそれを表に出すようなうかつなことはしないように重々気を付けてはいるのだが…
亜子が全てを話し終えると、
──柏木教諭は話したいことはそれで全てということでいいか?
と、錆兎が聞く。
正直その”柏木教諭”という呼び方は非常に他人行儀で距離を感じるので、”亜子”と呼んで欲しいところなのだが、今はまだデリケートな状況なので、あまり藪をつついて蛇を出すようなことはしたくない。
なので亜子が頷くと、錆兎は、──ふむ…と、顎に手を当てて少し考え込んだ。
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