寮生は姫君がお好き1053_道連れ

銀狼寮の姫君を遠回しに非難したら、何故か金狼寮の寮長がキレた。
激昂して掴まれた手首は痛かったが、我慢できないほどではない。
JSコーポレーションからの資料によると、金狼寮の寮長の不死川は貧しい家の将来を背負った奨学生ということだから、ひどい暴力を振るって退学になるようなことは絶対に出来ないので、これ以上のことはないだろう。

そうと思えばこれはチャンスだ。
姫君3人と寮長の中でも2大後ろ盾のない寮長である金狼と銀竜の寮長しかいない密室で手首が赤くなるくらいに乱暴に扱われている。
なんなら暴力暴言があったと捏造してもいい。

そう考えて室外に居る銀狼寮生に聞こえるようにとあげておく悲鳴。

洗脳が出来ないなら残された手は印象操作だ。
不死川にひどい目に遭わされている自分を姫君達が黙認していた。
なんならそうするように誘導していたと主張すれば、この部屋に居る人間全員が否定するだろうが、それが真実であるという証明はもちろんできないが、真実ではないという証明もまた出来ない。

銀狼寮の姫君がその状況を肯定するということは、亜子にとって敵地であり、助けはこない、作為的なものなら意味のない悲鳴。
それでもついそれをあげてしまうようなことがこの部屋では起こったのだ。
少数でもいい。銀狼寮の寮生にそう思わせられれば亜子的には勝ちである。

亜子がそう訴えれば少なくともそれをカバーしてくれる太い実家がない不死川は終わりだ。
別に不死川を追い落とす意味はそれほどないのだが、にっくき銀狼寮の姫君の味方をした男を破滅させられると思えば、少しは気持ちがスッとはする。
もう勝ち目がないにしても、少しでも誰かを道連れにしてやりたい。

と、そんなことを思って悲鳴をあげれば、なんともタイミングの良い事に、愛しの銀狼寮の皇帝錆兎が帰還したらしくドアを開けて顔を覗かせた。


それはまさにヒロインのピンチに駆け付けるヒーローのようで、亜子は感激しながら
──錆兎君っ!!良かった、帰って来てくれてっ!
と彼に駈け寄る。

そのままその逞しい腕に抱かれるべく抱き着こうとしたが、忌々しいことに邪魔が入って阻止された。
園内では権力者である寮長には、寮生以外はいきなり距離を詰めてはいけないらしい。

淡々と理由を説明する錆兎。
それでも不死川のように激昂したりせず、亜子が理不尽に恐ろしい目にあっているのだと泣きながら訴えれば、普通に話を聞くからと座るように促してくれた。

もう敗北は決まったと思ってやけになっていたが、この様子だとあるいは話の持っていきようでは大逆転もあるかもしれない。
亜子はそんな期待を胸に弱々しく頷いて見せるとソファに腰を下ろした。








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