寮生は姫君がお好き1052_皇帝帰還

──てっめえ、いい加減黙りやがれっ!!

必死に止める善逸に怪我をさせないで振り払う程度には、不死川の腕力が勝っていた。
そして振り払われた善逸が再度掴む間もなく亜子に掴みかかる。

──不死川さん、だめえぇえ~!!!
と、必死に止める善逸。

その善逸を手伝おうとする村田だが、
──うちは関わったらダメだよ?ちゃんと優先順位つけてね?
と無一郎が淡々とそう言いながらその腕を掴んだ。

もちろんこちらだって2歳差で曲がりなりにも武道を勝ち抜いてその座についた皇帝が姫君の手を振りほどけないと言うことはないのだが、村田はまだまだ冷静なのだろう。
無一郎に言われるまでもなく優先順位はわかっているのでその手を振りほどくようなことはしない。

ただ、
「でも…あれ放っておいたらまずくない?
相手に非があると証明されない限り、彼女の方は教師なわけだから…」
と困ったように無一郎を振り返って言う。

しかし無一郎は
「うん。でもそれは僕らがリスクを負ってまで関わるようなことじゃないよ?
僕らが多少のリスクを負っても関わるのは銀狼寮のことまでだよ」
と、飽くまでオブザーバーを貫く姿勢を崩さない様子だ。

炭治郎は心情的には今回に限っては不死川に追随したいところだが、一度感情で己の責務を失念してしまった自覚があるので険しい顔はしているが静観。

義勇は亜子に言われたことが脳内をグルグル回っていて周りの状況など見てはいない

こうしてさきほどの廊下の場景が繰り返される。
不死川の対応に亜子があげた悲鳴が響き渡ったその時だった。

がちゃっとドアが開く音がする。
随行した茂部太郎が開いたドアから入ってきたのはもちろん我らが皇帝だ。

「錆兎君っ!!良かった、帰って来てくれてっ!」
とヒロインさながらに目に涙をいっぱい浮かべながら不死川の手を振り切って錆兎に駈け寄る。
そうしてそのままの勢いで抱き着こうとするが、その前にスッと茂部太郎が間に入った。

…え?と驚いた顔の亜子。

それに対して
「申し訳ありませんが、自寮の人間が皇帝及び姫君に著しく密着する場合は、護衛のチェックを受けて頂く必要があります」
と、普段ののんびりとした雰囲気からがらりと変わって、淡々と…やや冷ややかとも思えるような口調で茂部太郎が言った。

その言葉に亜子はもの言いたげに彼の後ろに立つ錆兎を見上げるが、錆兎は
「まあそういうことだ。
柏木教諭は新人で知らないかもしれないが、我が学園では寮長及び副寮長は権限が大きいこともあって、その身辺においてはかなり気を付ける必要がある。
だから教師と言えど許可がない状態で軽々しく接触を試みると問題になることがあるから、気を付けた方がいい」
と、こちらも淡々とした口調で言いながら頷いて見せる。

その温度のない声音に戸惑いながらも、亜子は
「…で、でも……私、怖くて……」
と、涙を流しながら、ハンカチを目尻に充てることでそれが完全に隠れてしまわないように調整しつつ、すすり泣きながら訴えた。

「確かに…異性の代わりに姫君と言う存在がいるところに本当の異性の私が入ってくるのは学園にとって…特に姫君達にとっては好ましくないことなのかもしれないけれど…今日ここに来てからの扱いはあんまりです。
不死川君は最初から私が何か害を与える人間みたいな感じで暴力を振るってくるし…確かに姫君の意向は尊重しなきゃいけない立場なのかもしれないけど…」
ヨヨ…と泣き崩れる亜子。

それに異議を唱えようと不死川や炭治郎が口を開く前に、
「ほう?」
と眉を寄せる錆兎に、亜子は不死川に掴まれて赤くなった手首をかざして見せる。

それにちらりと視線を向けて、それから不死川に視線を向け、最終的に錆兎は
「とにかく話を聞く。全員着席だ」
と、それぞれを席へと促した。












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