新任教師柏木亜子は良く思われていない人物らしい。
みんな義勇に直接は言わないが、錆兎や炭治郎、その他周りの言葉や声音でなんとなくわかってしまう。
まあ錆兎があまり良くない人物だと判断している時点で自分と直接話をすることはないかもしれないが…と思っていたら、いきなりこれだ。
よりによって錆兎の不在中訪ねて来た彼女の悲鳴で駆け付けてみれば、不死川がその腕を掴んでいた。
さあこれはどうしたものだろう。
どちらにしても相手は女性なのだから男性である不死川が暴力的な行動に出るのはいただけない。
彼女がたとえよからぬ人物だったとしても女性である彼女と不死川、どちらが強いかと言えば不死川の方なのだから、彼が居れば別に拘束する必要はないだろう。
だからとりあえず平和的な話し合いをと思ってそう促すと、同じことを思っていてくれたらしい善逸が上手に動いてくれた。
こうしてリビングに戻って目の前にしてみると、彼女、柏木亜子はほっそりと華奢で年上の相手に失礼かもしれないが、どこか可愛らしい雰囲気の女性だった。
そのことにホッとしつつも、皇帝である錆兎が居ない今は副寮長である自分はその代理であり銀狼寮の代表なのだと今更ながらに気づいて、やや緊張する。
それでなくとも錆兎のような完璧な男を寮長に頂く銀狼寮の副寮長としては至らなすぎる自覚があるので、不手際がないように…とお茶をいれる手が震えた。
その間、同じ1年の姫君である善逸は実に卒なく来客に対応していて、普段は姫君らしくないとかいっているにも関わらず、すごいな、と、義勇は感心した。
そして同じ学年なのに気の利いた言葉の一つも出てこない自分に少しまた落ち込む。
そんなことを考えながらも一生懸命丁寧にいれたお茶を出すと、『美味しい』と言ってもらえて、ホッとして礼を言おうとしたら、いきなり他の家事全般もできるのかという突っ込みが入った。
出来ない…普段は錆兎が全てやってくれるのだと、ついつい本当のことを言ってしまうと、保育士や家政婦でもないのにそんなことまでやらされている錆兎が可哀そうだと言われて言葉に詰まる。
確かにそうだ。
自分はあれだけ完璧な錆兎の傍に居られるだけでなく色々やってもらってメリットだらけだが、錆兎の側は確かに学園の慣習に縛られて義勇の面倒を見させられてデメリットしかない。
姫君になりたての頃はいつもそれを意識していたが、最近はあまりに錆兎が当たり前に色々気遣ってくれるので当たり前のようになっていた。
申し訳ない!!
自分が存在していること自体が申し訳ない。
錆兎が学園を卒業しても義勇の面倒をみてくれるようなことを言っていたからその気になってしまっていたが、確かに亜子が言うように義勇は女性ではないので結婚して跡取りを産むということができるわけではないし、なんなら錆兎にそういう女性が出来た時に邪魔にすらなるんじゃないだろうか…。
そんな亜子の言葉に周りが何やら言って揉めているようだが、その喧噪も義勇の耳には入ってこない。
脳内にあるのはとてつもなく価値のある男である錆兎の人生をなんの取り得もない自分が現在進行形で食いつぶしていることに対する自己嫌悪だけだった。
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