──え?な、なにっ?!!
いきなり聞こえて来た悲鳴の声は高くて、しかし声変わり前の少年のそれとは明らかに違う。
つまり、この学園にいるたった一人の女性、新任の女性教師のものと思われる。
と立ち上がる炭治郎。
元々が正義感に溢れる彼は、本来なら弱者なのであろう女性の悲鳴を耳にして、脳内から自分の役割が飛んで行ってしまったようである。
その彼と同席していた善逸はむしろその状況に怯え、同じく悲鳴に怯える義勇と二人で抱き合って震えていた。
その反応に、
「俺、ちょっと見てくるからっ!」
と飛び出していく炭治郎。
そしてそれを見送りつつ、顔を見合わせる義勇と善逸の姫君コンビ。
「…どうする?」
「どうしよう??」
と互いに困った顔で、しかしここに二人残されるのも恐ろしいと決断したのは義勇の方だ。
「とにかく応接室に行こう!
そこには無一郎もいるし、さっき様子を見に行った不死川さんも、それに炭治郎だってそっちに行ったんだろうし。
ここに二人でいるよりも曲がりなりにも寮長の不死川さんと、錆兎が信頼する炭治郎が居た方が安心だ」
と善逸を促す。
確かに。
悲鳴を上げるようなことが起こっている外に出るのは怖いが、ここにいたからと言ってその要因になる災厄が絶対に近づいてこないとは限らない。
むしろ部屋に来られたら逃げ場がない。
そして…自分達二人では何かあってもどうすることも出来ないのは目に見えている。
…ということで、善逸はそれに同意して、義勇と共におそるおそるドアを開けて廊下に出た。
そしておそるおそる階段を下り、下の階の廊下に出ると、そこには不死川ともみ合う女性教師…柏木亜子の姿が見えた。
一方、亜子の方は亜子の方で、当然のようにすぐ不死川に捕まったものの、一応殺すのはもちろんのこと、大怪我もNGと指示が出ている時点で、力の差はかなりあっても本気で暴れる彼女を大人しくさせようとするのは、不死川と言えども簡単ではない。
その場から逃がさない、移動させないことはできても、秒で拘束とはいかなくて、そこに困ったことに悲鳴を聞きつけた炭治郎がまず駆けつけてきた。
「お前ェ……姫さん達の護衛はどうしたんだァ!!」
と怒鳴れば、その声音に反射的に反発心を感じた炭治郎が
「ちゃんと部屋に待機してもらっている!
でも何か危険なことが起きているならと確認しに来ただけだっ!」
と怒鳴り返す。
それで嫌な予感がしたのだが、予感的中。
炭治郎が放置してきたせいで1年生姫君達まで駆けつけてきてしまったことで、不死川も内心頭を抱えた。
(…あ~あ、これ絶対に錆兎に激怒されるやつだろォ…)
とがっくりとする不死川の腕の中で、亜子は目の前に駆け付けた一団の中の先頭に資料で見た銀狼寮の姫君が居ることを認めて、内心(勝ったっ!!)とガッツポーズを決めていた。
まあ…正確に言えば、この状況で本当の意味で一発逆転なんてありえないのだが、亜子からするとこうなってしまった以上、銀狼寮の姫君を傷つけるということのみが、唯一の目標になっているのだから、形は違えど勝ちは勝ちなのだ。
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