寮生は姫君がお好き1058_釈放と引き換えに…

これでようやく放免か…と思えば、そうはいかないようだった。

──でも、やったこたぁ、消えねえよなァ?!
と、余計なことを言う不死川。
ほんっとに忌々しい男だ!と亜子は内心舌打ちをする。

しかし今度はなんと自分に対して良い感情を持っていないであろう無一郎から待ったがかかった。

「ね、でもさ、たとえ彼女を罰したところで、黒幕をそのままにしてたら第二第三の彼女が出るだけだと思うよ?
それならむしろきっちり協力させて証言もしてもらって、黒幕を叩いた方が良くない?」
「…姫さんを害そうとした輩だぞ…」
「銀狼は実害出てないよね?錆兎」
「…それはそうかもしれねえがなぁ…」

非常に不満げな不死川の様子に無一郎は今度は
「義勇だって利用されただけの女性がひどい目に遭うだけで終わるなんて結末は心痛んで嫌だよね?」
と義勇に矛先を向ける。

錆兎が自分に向ける気持ちに対しての誤解が解けて、もうあとは興味なしとばかりに幸せそうに錆兎に笑顔を向けていた義勇は、いきなり名前を出されてきょとんと無一郎に視線を向けた。

「えっと…?」
と戸惑ったように言う義勇。

そこで無一郎ににっこりと
「錆兎が義勇を姫君じゃなくて個人としてちゃんと大切に思っているってわかったわけだしね、経過は別に構わないでしょ?
それよりこれ以上問題が降りかかって錆兎が振り回されて大変にならないよう、その黒幕をしっかり叩いておいた方が良くない?」
と言われれば、事情はよく分からないが義勇としては
「錆兎が大変な思いをするのは良くないな」
と、頷く以外の選択肢はない。

その義勇の言葉に、無一郎は今度は錆兎に
「錆兎のお姫様もこう言ってるわけだしね?
今回に関しては結果的に銀狼寮には実害はなくて、むしろ地位が上がった感じだし、ここは黒幕を追及して今後の実害を防ぐことの方が重要じゃない?」
と、交渉を試みた。

錆兎はそこで義勇に視線を落とす。

そして
「…無一郎は柏木教諭に黒幕のことを話させるのと引き換えに彼女を許してやって欲しいと言っているんだが…。
実際に傷つけられたのはお前だから、お前が好きにしたらいいと思う。
どうしたい?」
と、聞いた。


「俺は…錆兎が居れば何を言われても全然平気だけど…。
これからもみんなに色々迷惑をかけてくる相手がいるなら、それは退治したほうが良いと思う…」
と、上目遣いに錆兎を見つめる義勇。
ああ…あざと可愛い…と、亜子以外のこの場に居る全員が思った。


そして結論。
「というわけで、決定だ。
柏木教諭の罪状を追求したいと言う不死川の言い分はわからなくはないが、却下。
ここは銀狼寮だ。
ここでは我が寮の姫君の意向が全てにおいて優先される」
と、真顔で宣言する錆兎。

「その代わり…黒幕の方は存分に叩くと言うことでいいな?」
と色々な意味で頭の上がらない銀狼寮の寮長に言われれば、不死川も譲るしかない。

…というか、譲らないと言っても結果は変わらないだろうし、抵抗は無意味だと言うことはさすがにわかるので、渋々頷いた。


(…まあ、ね。
いったん抵抗する意思も起きないくらい叩いておいて、助かったかと思えばまたピンチ。
そこを救ってくれたのが義勇だと思えば、少なくとも義勇にこれ以上敵対心が向けられないでしょ。
その流れの一端を担ったわけだから、不死川の発言も無意味なわけではなかったよ)

…と、そこですっきりしない不死川に珍しくこっそりフォローをいれてくる無一郎に不死川が驚いた目を向けると、

(その役割を実は期待されてて、期待されてたことをきっちりこなしていることもわかってないみたいだったからね。
君の気持ちなんてどうでもいいけど、黒幕の追い込みまでに錆兎に余分な手間を掛けさせる要素は省きたいから。
他人のフォローなんて僕の仕事ではないとは思うけど、それが僕のためにもなることだから、一応、ね)
と、相変わらずツン…と澄ました様子で無一郎はそう言うと肩をすくめた。

そうか…自分は義勇の安全に一役買っていたのか…
そう思うと、不死川もなんだか気持ちが晴れてきた。


「…ということで、モブ三銃士、3人それぞれ映像撮っているな?
それをOB達に事情がわかるようにきちんと編集しろ。
あとは大人が勝手にやるだろう。
中心になって関わった銀狼の意向としては、脅された実行犯である柏木教諭は黒幕を叩き伏せるための協力をさせるのと引き換えに罪を問わずに逆に表立ってない勢力からの攻撃を受けないように保護と生きていくのに困らない生活をさせるということで。
まあ、司法取引の対象ということだな。
それでいいな?」
と、自寮の皇帝の言葉に敬礼するモブ三銃士。

ポカンとする不死川と善逸、それに村田。

驚いた様子もなく
──さすが銀狼寮。上も下も優秀だよね。
とクスクス笑う無一郎。


「それでは作業にかからせて頂きます!念のため射人だけ残しますので、何かありましたらなんなりとお申し付け下さいっ」
と敬礼して出て行こうとするモブ三銃士の二人に
「錆兎がマントを翻して金竜寮戦で指揮を執っているシーンは俺も見たいから、あとでダイジェストで見られるようにして欲しい」
とリクエストする義勇。

それに少し照れた様子の錆兎と
──承りましたっ!
と嬉しそうに言う茂部太郎。

──もう高校の寮じゃねえよな、ここの人間は…
と呆れたように零した不死川も、そんな義勇の言葉で急に男子高校生に戻る面々に苦笑した。









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