数日後…銀狼寮のダイニングでは古今東西のご馳走が並んだ戦勝祝いのパーティーが開かれていた。
そこでは今回の騒動をモブ三銃士がわかりやすく編集した画像が流され、寮生達は皇帝のカッコよさ、姫君の美しさはもちろんのこと、自身達の行軍風景などもしっかりと映っているため、かなりの盛り上がりを見せている。
これはベスト姫君を狙う銀狼寮のプロモーションムービーとすることを目的として作られているのだが、同時に、今回の騒動を学園のOB達に報告し、亜子やJSコーポレーションの裏に居る今回の黒幕を潰してもらうための記録動画でもあるので、各寮や寮長、姫君などの解説も入り、かなりわかりやすいものになっていた。
これを見たOBの中にはこの映像を撮り編集した人間をぜひ雇いたいという者も多くいたが、モブ三銃士は自分達は飽くまで皇帝錆兎と姫君義勇のためのモブだからと表に名を出すことを潔しとはしなかった。
ということで、今回の一番の功労者がその所属ということで、OB達の間でも銀狼寮の評価はうなぎ登りである。
上級生達が洗脳されていく中、毅然とした態度を取り続ける銀狼寮の寮生と、それを率いる皇帝。
命がけで姫君を逃がす金竜寮の中等部生達も、その彼らを助けるために銀狼寮の力を借りて危険な自寮に戻る姫君も、藤襲の気高い心を持った英雄と称えられ、自分は安全な学外に避難はせず銀の狼達の戻る場所を守るのだと言うまだ幼さの残る銀狼寮の姫君には感嘆のため息が漏れた。
みなが、自分達の愛する母校で起こった事件と、巨悪に断固として立ち向かう後輩たちに拍手喝采。
当たり前だがこれを見て動かないOBはいなかったと言って良い。
あっという間に世界中のOBがJSコーポレーションの断罪のために集まり、そして今回の事件の背後にいる勢力について調べ始めた。
まあ…錆兎を始めとする一部はなんとなく予想はしているのだが……。
──これ以上善逸本人に隠すの無理な感じじゃね?桑島の爺さんも覚悟決めて話すんじゃね?
と、不死川が言っていたが、そちらはどうなったのだろうか…と、錆兎は盃を傾けながらぼんやりと考えていた。
映像はちょうど金竜で小郎を確保しかけたあとにいきなり銃撃された場面で、金竜の玄関前からカメラは視点を移動、撃ってきた金狼寮の田原一郎が映っている。
そちらの意味でも不死川は心中穏やかではないだろう。
そんなことを考えていたら、錆兎の腕をぎゅっと握ってくる姫君。
「ん?どうした?」
と問いかければ、その大きな青い瞳に見る見る間に涙があふれてきた。
「え?ええ??どうした?!舌でも嚙んだか?!」
慌てる錆兎。
不死川のことなど一気に頭から吹っ飛んだ。
そうだ、人間にとって優先順位は何より大切だ。
それさえしっかり保たれていれば、今回のようなことは起こらないのである。
まあ…錆兎達銀狼寮の寮生達が今回それを失わずに済んだのは、ひとえに姫君印の香水のおかげではあるのだが…。
茂部太郎の作った香水は射人の親の会社で成分を分析して、JSコーポレーションの使用した洗脳薬に有効な対処薬として射人の実家から世界へ向けて売り出されたらしいから、当分今回のような事件は起こらないはずだ。
まあそれはそれとして、錆兎にとって目前の解決すべき最優先事項は泣いている自寮の姫君の涙を止めることである。
まずはハンカチ。
それを目元にあてながら最近いつもそうするように小さな頭を撫でてやると、あの騒動時の毅然とした様子が嘘のように
──…錆兎…すごく危なかったんだなって……
と幼さ全開でヒックヒックとしゃくりをあげた。
あ~、それか…と錆兎は合点がいった。
確かに銃撃された時は宇髄が銀虎寮生を引き連れて駆け付けてくれなければ危なかったと思う。
──あ~…確かに俺だけで突っ走っていたら危なかったかもな…
全然大丈夫と言っても嘘なのは一目瞭然なので錆兎は少し考えてそう言った。
「でもな、お前ほどではないが俺も愛されてるからな。
あの時本当に俺が撃たれてたら、うちの寮生は盾になって救い出してくれていたぞ?
それ以前に3年生組がちゃんと近接が得意なうちの寮の性質を考えて、わざわざ遠隔が得意な銀虎の寮生引き連れてきてくれたしな。
なにより、この銀の狼の巣を大切なお前が守ってくれてたしな。
俺はずっとお前を守るって決めてるから、自分が大怪我したりはしないぞ。
俺自身が動けなくなったらお前を守れないだろう?」
と、そこでちゅっと泣いて真っ赤になった鼻先に口づけを落とすと、少し落ち着いたのか義勇は小さく頷いて見せた。
そんな二人のやりとりに何故か感涙するモブ三銃士。
リアルカイン&アリア万歳と言いつつ、相変わらずカメラを回している。
とりあえずめでたしめでたしの銀狼寮。
しかしその銀の狼の巣の外では良くも悪くも色々が目まぐるしく動いていた。
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