kmt 前世からずっと
アンボイナのシェアを独占してから数か月。 ミナモト商会は猛スピードでマカッサル、スラバヤのシェアも独占。 もちろんその間にはクーンの側もこちらが独占している街に攻撃を仕掛けたりもしてきたが、それを見越しての防壁強化だ。
「ムラタ、アスワングってなんだ?」 その日、いつもよりはやや早い時間に帰船した錆兎の第一声がそれだった。
あれからアンボイナに寄港。 この街のシェアはほぼほぼクーンの物だったが、そこは計略はお家芸のようなものでお手の物のマリアが街に部下を潜ませて秘やかに…そして実に見事にクーンの悪評を流して、度を超えた不信感にクーンとの契約を打ち切ったシェアを買収。 着々とシェアの独占を完了させるま...
──それで…引き受けてきてしまったわけね…… 船に戻って例によって船長室で報告会。 そこで小箱を見せつつ、クーンについての話をすると、マリアは片手を額にあてて、はぁ~…と、小さく息を吐き出した。
「…ってぇことで、対等になったとこで、まあ本題なんだが…」 握手の手を離したところで、ペレイラはもう一度、錆兎に座を勧めて、自身もソファに座りなおした。 こちら側に本題があったように、ペレイラの側にも会見を受け入れるだけの理由、本題があったらしい。
こうして馬車が停まった先、ペレイラ商会の本拠であるマラッカの商館。 とうとう、来てしまった…と、再度緊張するムラタに ──大丈夫。責任者は俺で、すべての責は俺が負う。お前は何も気にしなくていい。 と、錆兎が笑顔で言ってくれる。
バナナ、スイカ、スターフルーツ、マンゴー、グァバ、パパイヤ、パイナップル、ジャックフルーツ、ポメロゥ、ドクゥ、マンゴスチン。 初めて降り立つマラッカの街の市場はとても賑やかで、そこでは驚くほどの種類のカットフルーツが所狭しと並んでいる。
──あ~…それ檮杌じゃないかしら。よく生きて帰って来たわね。 ──ひっ…マジ?!いや、でもさ、あれって伝説上の生き物じゃないの?!
──これより先に進めるのは資格を持つ者のみだ…… 地図に従ってたどり着いた先は一見何もない平原だった。 しかし、そこに突然現れる銀色に輝く扉。 そう、何もない平原にいきなり扉が浮かんでいるのである。
結局船はシェンに任せて、いつもの4人で紫禁城へ。 正門は南の午門だが、住職に言われて北の神武門から足を踏み入れる。 すると何か空気がゆがむような感覚があって、いきなり何もない暗い洞窟のような所へと飛ばされた。
──ということでね、はい、これは私からのクルシマ討伐完遂のプレゼント と、いきなりマリアが錆兎に投げてよこしたのは、何やら古い巻物だ。
その後、そのまま夜通し馬を走らせ大坂港へ。 着いたのは明け方だと言うのに、寝ずに待っていたのだろうか…義勇が船から飛び出してきて、馬から降りた錆兎に抱き着いてくる。
──さ~び~とぉぉ~~!!! ──錆兎様っ!おかえりなさいませっ!!! 馬のところまで戻って、今度は都まで。 街はずれにあるとてつもなく立派な館。 予め連絡を入れておいたため、立派な門のあたりには多くの人間が集っている。
「さあ、ここからは念のため徒歩だ。 馬を殺られると帰り徒歩になるしな」 どのくらい馬を走らせたのだろうか… 街から少し離れた山の中で錆兎はいきなり馬を降りた。
クルシマをふんじばって大坂港に凱旋。 そのまま以心伝心とばかりに捕虜から必要な情報を引き出すのはマリアに一任したらしい。 ──ちょっと京まで行ってくる。 と、ずいぶんと軽装でそう言う錆兎の羽織の裾を義勇がむぅっとした顔でつかんでとめる。 ──錆兎が行くなら俺も行く。 そう言う義勇...
ドド~ン!!と響き渡る大砲の音とザザーン!!!とはじける波吹雪。 接舷した船から相手の移乗攻撃を許したのは、後れを取ったからではない。 自船に敵を誘い込んだ方が戦いやすいと踏んだからだ。
──おかえり、どうだった? 赤々とした夕焼けを背にひじ掛けに肘をついたまま、にこやかにそう言い放ったのは我らが船長である。 色々ありすぎて本当に生きた心地がしなかったムラタは、そこで今度こそ大きく肩の力を抜いて息を吐き出した。
「ムラタ、こっちよ、急いで」 杭州の小売店が立ち並ぶ繁華街。 そこでムラタは周りの男どもから羨ましそうな目で見られながら大荷物を抱えて歩いていた。
──さぁ~!今日も鍛えるぞぉぉ~~!!! ミナモト商会総帥、サビト・ミナモトはとてもいい笑顔で片肌を脱いだ。 もう鍛錬好きすぎだろ、こいつ…とため息をつきながらも、その脳筋船長の鍛錬に付き合ううちに知らず知らず細マッチョになってきたムラタはマストに登る。
義勇のことは錆兎がマリアから預かったマリアの妹で、身分を隠すために男装をさせた上で亡くなったばかりの幼馴染のフリをさせて連れ歩いていたことにして、義勇の生存を隠そう…というのが、マリアの提案だった。