前世からずっと番外3_27_マリアの贈り物

アンボイナのシェアを独占してから数か月。

ミナモト商会は猛スピードでマカッサル、スラバヤのシェアも独占。
もちろんその間にはクーンの側もこちらが独占している街に攻撃を仕掛けたりもしてきたが、それを見越しての防壁強化だ。

東アジアで大金を投じて開発した飛距離、威力ともに最高のキャロネード砲を積んだミナモト商会の船と違って、まだまだ戦闘という意味では開発途上である東南アジアでは威力の高い大砲もなく、最高レベルまであげた防壁はビクともせずに返り討ちにあって逃げ帰るを繰り返している。

そうしていよいよ支度が整って、クーン商会の本拠地バタヴィア攻略に出る前に、そのことをペレイラに知らせて、こちらとクーンがやりあっていてクーンが動けないうちに、クーン商会とペレイラ商会でシェアを取り合っているギアディンとバレンバンのシェアを独占するよう働きかけておいた。


スラバヤの港からバタヴィアに向かう前日…
それまでは先に先にとクーンの勢力地に入ってシェア獲得に勤しんでいたため、なかなか合流できずにいたマリアが、ようやく合流。

船長室に入るなり、
「雪華っ!会いたかったわ」
と、総帥の錆兎をそっちのけで義勇に抱きついた。

まあ…もう、そんな反応も慣れているとばかりに、大人しく待っている錆兎とムラタ。

──姉さん、姉さんっ!無事で良かったっ!!
と、それに抱き着き返す義勇がとても嬉しそうなので、良しとする。

なにしろ一度は唯一の姉を亡くしているので、仮にとはいっても姉と言う存在であるマリアが自分と離れて危険な場所に行っているのは、義勇的にはとても不安だったようだ。

これで義勇も一安心。
いつもの屈託のない笑顔が見られるか…と、むしろホッとした錆兎だったが、マリアの贈り物は自らの無事な姿だけではなかったようだ。

「運んで頂戴」
と、部下に運ばせたのは長細い箱。

部下がそれを置いて出ていくと、マリアは
「今日はね、雪華に素敵な贈り物があるのよ」
と、鼻歌交じりに箱に手を伸ばす。

パカリと箱を開けると中から出てきたのはなんと義勇の瞳のように美しい青色をした弓。
そして矢尻の部分が銀色の矢が入っていた。

おお~!!!と歓声をあげたのは錆兎とムラタで、当の義勇はぽかんとしている。
しかしまん丸く見開かれた目はキラキラとして、
「どうぞ」
と、マリアから手渡されたそれを恐る恐る受け取ると、少しの間のあと、ぎゅっと抱きしめた。

──…弓だ……
と、零れ落ちた一言。

その声音には、平安時代からずっと手にしてきた、しかし、今生で日本を離れてからずっと手にすることが出来ずにいて久々に握るそれへの万感の思いが込められている。

戦うことが好きなわけでは決してないが、それを握って錆兎の後ろで錆兎を守る…それがずっと義勇のアイデンティティのようなものだった。

「自衛に銃も教えたけど、戦いの場に出るなら、これかなと」
と言うマリアに、うんうんと頷く義勇。


「義勇を戦いの場に出す気があったんだ…?」
と、そのマリアの発言にムラタが少し驚いたように言うと、マリアは

「たぶんバタヴィアに向かう途中で海戦が始まるでしょうし、海戦が始まったら奥にこもるより錆兎の後ろの方が安全だから。
世界で一番安全な場所でしょ?」
と、ニコリと笑う。

「あ~…確かに…」

「で、アスワングは飛ぶらしいし、それなら飛び道具が役にたつんじゃないかと。
あとはそうね…錆兎の武器は魔物を倒した実績のある武器だからいいとして、義勇のはね、魔物に強いと言われる銀で作った矢尻を同じく魔物に強いと言われる聖水に浸した矢尻なの」

「なるほどね…」


マリアはもう魔物はクーンがいるから出没するというより、クーンが連れ歩いているという前提で考えているらしい。
そうなれば、飛べる魔物は他がガードしようと関係なく、空から大将である錆兎を狙ってくるだろう。
その時に後ろにいるなら、当然攻撃できた方がいい。

雪華として過ごしている時期が長すぎてムラタですら忘れかけているが、義勇は錆兎と並ぶ日本の英雄の家系で、その一族は弓を得意とする。
つまり、この船に乗っている中でも錆兎に次ぐくらいの戦力なのである。

村田が手配していた船団を商船団から軍艦仕様の船団への改造作業も終わり、義勇の手にふさわしい弓が渡ったということで、戦闘準備は万全だ。

そしてその間にマリアが他の港のシェアは独占して回ったため、クーンは本拠地バタヴィアに停泊中との情報も得ている。

ということで東南アジアでの計画も佳境に入ったとみていいだろう。

「じゃあ商用の船団は巻き込まれない様に当座は北のマニラとその北の東アジアでの交易をさせるために北上を命じて、装備の最終確認に3日。
4日後にバタヴィアに向けて出発だ!」
「了解よ。そう命じてくるわね」

錆兎の言葉に戻ったばかりだと言うのに疲れの一つも見せずにマリアがまた慌ただしく部屋を出て行った。

東アジアでのクルシマ戦以来の久々の海戦である。


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