前世からずっと番外3_12_初海戦

ドド~ン!!と響き渡る大砲の音とザザーン!!!とはじける波吹雪。

接舷した船から相手の移乗攻撃を許したのは、後れを取ったからではない。
自船に敵を誘い込んだ方が戦いやすいと踏んだからだ。


あちこちであがる叫び声。

半年間の修業で剣術を叩き込まれはしたが、見ると聞くとは大違いと言うか、実際に戦ってみれば練習のようにはいかない。

それでもそれまでは剣術どころか肉体労働すらほぼしてこなかったムラタにしてみれば、なんとかかんとか目の前の敵を倒せただけでも快挙である。

ふぅ…と安堵の息を吐き出して、袖口で噴き出た汗をぬぐって一息ついて、ふと見渡せば少し離れた場所であがる悲鳴と歓声。


甲板の中央、開けた場所で水しぶきのような幻影が見える剣戟。

鮮やかな宍色の髪を翻して、キラキラと輝く日本刀で恐ろしいほどの数の敵を斬り捨てている我が船団の船長。

妖術使いか仙人か、と、怯える敵に喝采する味方。

確かに普通じゃない。
刀を振るえば水の刃が広がるのが見えるのなんて普通じゃない。

それに怯えて自船に逃げ戻ろうとする敵の水夫たちは、渡し板の傍で待ち構えたこちら側の水夫たちに斬り伏せられている。


こちら側に渡ってきた敵側の水夫がほぼ片付いて、必死に渡し板を外して船同士の距離を取ろうとする敵とそれをさせまいとする味方の攻防を見ると、当たり前に

──ちょっとクルシマの首を取ってくるからマリア、あとを頼む!

と、まるでそこらに買い物にでも行くような気楽さでそう言うと、錆兎はなんとぽぉ~ん!と二つの船の間をその距離などまるで感じていないかのように身軽に飛び越して、敵船へと渡って行った。


──ちょっとっ!!

と、これにはさすがのマリアも呆れ顔で叫んだが、止めようにも錆兎はもうわずかに残った敵船の水夫たちの中に特攻している。


──とんでもない脳筋だな……

と、敵の中に船長が一人突撃していったなどという大変なはずの状況でも何故か全く焦りや不安を感じずにムラタも呆れて呟くと、たまたま隣にいたシェンが

──斉天大聖孫悟空の生まれ変わりのような御仁だな。

と、やはり呆れたようにつぶやいた。

そう、みんな呆れはしたが心配はしていないところがミソだ。


敵側も錆兎一人きりなら…と、おそらくなけなしの人数の水夫が集まってくる。

──野郎ども!腕の一本足の一本折っても良いが、殺すなよっ!!

と、がなり立てている体格の良い男がソウジン・クルシマらしい。

その男の言葉にマリアは一瞬目を見張って、それからにやりと悪い笑みを浮かべた。

「錆兎ぉぉ~!!!”資格者”の底力を見せておあげなさいなっ!!」

珍しいマリアの大声。
それに錆兎は笑って手を掲げる。

その隙にと攻撃を仕掛けた敵水夫はドド~ン!と光る夏の波のような剣戟に木っ端微塵に散らされた。


本当に…ムラタが最初に錆兎に対して感じたように、まるでおとぎ話の主人公のようなまっすぐ明るく痛快な強さで、敵船に自分1人きりで戦っているというのに、まるで危なげがない。
片っ端から雑魚を散らしてとうとうボス、ソウジン・クルシマとの一騎打ち。


大槍を振り回すクルシマ。

その大ぶりな攻撃を避けて間合いに入ったかと思うと、いきなりひとっ飛び。
なんとクルシマの持つ槍の柄に飛び乗る錆兎。

それからクルリと一回転する勢いで思いきりその顔に蹴りをいれた。
吹っ飛ぶ巨体。


「殺さないようにしないとだからな」

と、言いつつ、しゅるりとどこからか出した組みひもでおそらく脳震盪でも起こしたらしくぐったりとしたクルシマを縛り上げて、自分の倍ほどは体重がありそうなクルシマの巨体を担ぎ上げて自船に戻ってくる。



歓声に次ぐ歓声。

クルシマがシェアを独占していた大坂の街は、そのクルシマを海戦で破ったミナモト商会の船を攻撃してくることはなく、港を明け渡した。


こうしてムラタの初めての海戦はあっけなく幕を閉じる。



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