前世からずっと番外3_13_帰郷

クルシマをふんじばって大坂港に凱旋。
そのまま以心伝心とばかりに捕虜から必要な情報を引き出すのはマリアに一任したらしい。

──ちょっと京まで行ってくる。
と、ずいぶんと軽装でそう言う錆兎の羽織の裾を義勇がむぅっとした顔でつかんでとめる。

──錆兎が行くなら俺も行く。
そう言う義勇に、いつもなら義勇のいうことは大抵聞いてやる錆兎だが今回は

──ダメだ。お前が生きていることを絶対に知らせたくないあたりを訪ねるから
と、渋い顔でその願いを却下した。



なるほど…もしかして…

──クルシマを潰したところで諸悪の根源の所?
と、さすがに察したムラタが尋ねると、錆兎は頷いたあと、

──ついでに父の所にな。念のため報告と警告をしてこようと思っている。
と、付け足す。


そして
「だから今回はいい子で待っててくれ」
と言ってもイヤイヤとぶんぶん首を振りながら頬を膨らませる義勇に、錆兎は片手を額にあてて、はぁ…と大きく息を吐き出した。

「父親はお前の生存を知っているが、碓井と坂田は知らない」
「…だからなんだ?」
「俺はこれから世界を回って覇者の証について調べるし、必要ならそれを集めて回る」
「………」
「だから渡辺の家は継がないし、おそらく日本には戻らない」
「………だから?」

「ん。そう言ったらおそらく付いてくると言うだろうな、碓井と坂田の娘は…」

錆兎のその言葉で義勇の顔がこわばった。


「え~っと…ただの冒険好き?
それとも錆兎目当て?」
と、そこで好奇心に勝てずにムラタが問うと、錆兎はそれに
「両方だな」
と、短く答えたあと、義勇を向き直って続ける。


「だから…はっきり言っておこうと思ってな」
「……?」

「俺は渡辺を継ぐと言う義務がなくなったところで、杭州のリー家の総帥、マリア・ホアメイ・リーの妹を嫁にもらうから、他に女は要らんとな」

「…っ!!」

ぱぁっ!と表情が輝く義勇。
それを見て錆兎が少し難しい表情を作ってみて言った。

「ということで、万が一にでもその相手が実は架空の人物だとバレたら面倒だろう?」

「うん!そうだなっ!」
と、いきなりコロっと変わる義勇に錆兎が、じゃあそういうことで…と、馬に飛び乗る。


そこで何故かマリアから背負い袋を背負わされるムラタ。

「現状の説明係も連れて行った方が良いと思うわ。
万が一ね、引き留められたりそれでもと付いてこられたりしないように。
錆兎の妻はリー家のマリアが手塩にかけた可憐な乙女で、他が割り込む余地など欠片もないと、きちんと説得してね、ムラタ?」

そういうマリアは笑顔だが目が笑っていない。

これは…拒否権は与えないと言う無言の圧力以外の何ものでもないということを早々に悟って


「…一蓮托生、運命共同体…そんな感じか…」
と、諦めのため息をつきながら、ムラタもマリアが用意した馬にまたがって、錆兎に並ぶ。

「まあ…日本は俺のルーツでもあるから一度見て回りたいとは思ってたし、行ってくるよ」
と、どうせなら前向きに…と、手を振るムラタだが、彼は反れた話題の方に気を取られて失念していた。


そう、頼光四天王の家々を訪ねるより先に、まず錆兎が寄るのは卜部本家の人間を殺した”裏切者”の館だということを…


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