前世からずっと番外3_15_頼光四天王

──さ~び~とぉぉ~~!!!
──錆兎様っ!おかえりなさいませっ!!!

馬のところまで戻って、今度は都まで。
街はずれにあるとてつもなく立派な館。
予め連絡を入れておいたため、立派な門のあたりには多くの人間が集っている。


──これ以上馬のまま進んだら誰か轢きそうだな…
と、苦笑して館まで数メートルほどの所で馬を降りる錆兎。

ムラタもそれに倣って馬を降りると、館から使用人が走って来て馬の手綱を受け取って馬小屋の方へと消えていく。

それと同時に大勢の人間の中から二人の少女が飛び出してきた。
どちらもそれぞれ錆兎に抱き着いて、同時に互いに相手を引きはがそうとする。



「せっかくさびとが戻ってきたのに、香水臭い出迎えなんてやめてあげてよっ!!」
「錆兎様は平安から続く四天王筆頭の嫡男ですよ?風流を解さない汗くさい女こそ遠慮なさいな」

ピキピキととがった空気に苦笑する錆兎。


(一応…香水が碓井で汗が坂田な)

などと大声で言い争って互いしか見えていない少女たちを尻目に、身も蓋もない表現でこっそりとムラタに告げる。


そして怒鳴り合う二人の頭をグイっと押しのけ

「坂田オジも碓井オジもなんとかしてくれ。
再会を懐かしむのはやらねばならんことを終わらせてからゆっくりにしたい」

と、彼女たちを各親に引き取ってほしい旨を伝えながらも、決して彼女たちの歓迎の気持ちが迷惑ではないのだと暗に伝える。


そして、その言葉にハッとしたように口論をやめて自身を見上げる少女二人に、

「すまんな。久々で懐かしいのは俺も同じだが、ここに戻る前に寄ってきた卜部の家で少しばかり急を要するかもしれん案件を知ってな。
俺だけでは判断に迷うから筆頭の判断を仰ぎたいんだ」
と、少し困ったように笑みを浮かべた。


「いえ…申し訳ありません。筆頭にお伝えしてまいります」
と、パッと駆け出す碓井に

「じゃあ、私はお茶の用意してくるねっ!」
と、同じく駆け出す坂田。

そのあたりは訓練されているようだ。


「それは…俺たちも聞いた方が良い話か?」

と、娘たちと入れ違いに近づいてくる二人の身なりと体格の良い男たちは、おそらく坂田と碓井の当主なのだろう。


それに錆兎が
「その方が早いと思う。すでに筆頭にはそれに関わった海賊から聞き出した情報を部下がまとめて伝えているはずだが、俺が卜部から聞いた情報と合わせて今後を少し相談することになると思う」
と頷くと、
「わかった。では家に…」
と、2人は錆兎とムラタの左右について、渡辺邸の中へと2人を促した。



こうして門をくぐり玄関を抜け、奥へと続く長い廊下を進むと大きな広間へとたどり着く。

左右に居並ぶ4家の男たち。

その最奥の一段高い座についているのが渡辺の当主なのだろう。
髪色も目の色も多くの日本人と同じく黒いが、その顔立ちは錆兎とよく似ていた。


錆兎は当たり前にその前まで進むと、膝を折り、

──ご報告があり一時帰国いたしました
と、深々と頭を下げる。

もちろんムラタもそれに倣った。


船の中でちょくちょく聞いていた気の置けない脳筋武家の気軽な雰囲気とは大違いの重く張りつめた空気は、今かなり緊迫した状況だという証である。


──お前の部下から連絡を受け、すでに坂田と碓井、冨岡、吉瀬、それに源のお館様と、産屋敷のお館様にも足を運んで頂き話し合った。

挨拶の返事もなく、いきなり本題に入られる。
錆兎はそれに慣れているのか、全く動じることはなく、頭をさげたまま頭領の次の言葉を待っていた。


「結論から言う。
お前はこのままその覇者の証とやらを追え。

すでに問題は一族の範囲の危機を超えている。
この日本のみならず世界の水面下で争われているものであれば、あるいはそれは無惨よりもはるかに脅威になりうるかもしれん。

証を全て手にするか、それが脅威ではないと言う確証を得られるまでは帰ることはまかりならん。
本家は無惨の対応で動けんが、私が死ぬまでは後継は据え置くから、それまでにはなんとかしろ」

「いえ、そこは外しておくところでは?」

と、それまでは伏してずいぶんと突き放したような厳しい沙汰を淡々と聞いていた錆兎がそこで初めて顔をあげて言う。


親子で目と目があう。

しばしの沈黙。
そして当主の錆兎の父が断言した。

「外さん。能力を持って当主の子に生まれた運命だ。諦めろ」

そして、──そのかわり……と、付け足す。

「妻を持てとは言わん。
お前の後継はお前が決めればいい。
望むならお前が戻る時期に親族の中から養子なり跡取り候補なりを探しておいてやってもいいし、お前が自分で探して決めてもいい。
好きにしろ」

と、その言葉に錆兎ははぁ~~~と長いため息をついた。



「まあ、錆兎は筆頭の座からは逃れられんわなぁ」
と、そのため息で少し場の空気が変わったようで、坂田の当主がわっはっはと豪快に笑うと、
「なんならうちの娘に仕込んでから発つか?」
と、ドン!と錆兎の背を叩く。

「いや、筆頭の子を産むなら坂田よりは我が家だろう。
錆兎が子を成してくれるなら、うちの一族の家の好きな娘を選んでくれていいぞ?」
と、そこで二人に割り込むように錆兎の肩を掴む碓井の当主。


「何を言う!渡辺と坂田はこれまでも血縁関係を多く結んでいる。
こいつの子を産むのはうちの妙だっ!」

「いやいや、だからこそ坂田はもういいだろう。
今度はうちの番だ。
幸い、うちの娘たちは器量良しなだけじゃなく、作法もしっかりしつけている。
小夜はどうだ?あれはずっと錆兎を想っているしな」

「いや、作法など生まれてから渡辺でつければ問題はないっ!
それよりは強い男児が産める丈夫な身体だろうっ!
それなら断然うちの妙だっ」



(…ちなみに…妙と小夜は最初に出迎えた娘達な。
坂田と碓井はなんにせよ親も子もこうやって張り合ってくるんだ。
どちらが上でもいいだろうと思うんだが…)

と、横に並ぶ互いの親族も巻き込んでやいやいと大騒ぎの坂田と碓井をよそに、錆兎はやっぱりため息をつきながらムラタに説明してくれる。


いやいや、上だ下だという話ではないのだろう。

少なくとも娘二人は単に錆兎個人に惚れているのだと思うが、そこは言っても仕方ないことと、ムラタも黙っておくことにする。
錆兎だってそのあたりどうでも良さそうだ。


しかし放置しているとだんだん互いの一族で手が出るものが出始めて、錆兎も腹を決めたようだ。

──両家とも静まれっ!!どちらとも子は作らんっ!!

と、喧騒にかき消されないほどに大声で叫ぶが、

──ほら、お前のせいで…
──いや、お前のせいだろうっ

などとまた始まるので、

錆兎はとうとう言い切った。


──今現在すでに嫁にと思っている娘がいる。
──ええええっっ?!!!!!


と、そこでようやく双方絶句することで静かになる。



「明の杭州を拠点としている大財閥の総帥の妹で、その縁で切れ者と名高いその総帥が腹心として働いてくれている。
そういう意味でも大切にしたいし、なによりその娘は……義勇にどこか似ているんだ」


最初に便宜的な話をした時にはまだ何か言いたげだった周りも、その後に続く言葉に静まり返る。

確かにあの錆兎と義勇の距離感を見ていると、本当に義勇が亡くなっていて似た相手と結婚したいと言われればムラタだって止める気にならない。


「…んっ…んん…じゃあ、別に一緒にならないでも構わんから子どもだけでも…」
と、坂田は諦めきれないように言うが

「俺は女房には色々と面倒をかけざるを得ない男だから、相手に対する誠実さくらいは持ち合わせたいと思っているから、すまないな」
と、静かに、それでもはっきり伝える錆兎に完敗したようだ。
ガシガシと頭を掻きながら、坂田も筆頭の横の自分の座にドスン!と腰を下ろす。



そこで嫁騒動はひと段落ついて、錆兎が宗九郎から聞き出した話をあらためて報告。

それを踏まえて今後は卜部の分家から適した者を当主に立て、4家で今後このような事態が起きぬように対策を練るということで、合意した。

本来ならここで宴の一つでも設けたいところではあるが、どうもそんな暇はなさそうだ…と、錆兎が立ち上がる。


「とりあえず…すでに証を獲得に動いている勢力がいる以上、こちらも早急に動かなければならないので、こうして今後の確認も出来ましたし、もう発ちます」

「うむ。新たに進展があった時には可能な限り報告をするように」
「御意」

他の家の当主達とはどこか砕けたようなやりとりを見せながらも、実の親とのこの距離感は相手が”筆頭”だからなのだろうか…


自身の親子関係と比べてどこか堅苦しく寂しい感じを覚えるムラタだが、まあ、自分が口をだすものでもないな…と、錆兎に続いて立ち上がって礼をすると、なぜだか

「そちらの御仁…あ~…なんといったか…」
と、その筆頭様に呼び止められる。

「はい。ムラタと言います」
と、初めて交わす言葉にやや緊張しながら答えると、渡辺の当主…いや、錆兎の父は

「錆兎は物理的なことは並みの大人では到底及ばないほどに育てたつもりだが、優れた大人でも一人で全てをこなせるわけではない。
海に出ればここに居る時のように一族や坂田、碓井などの助けもない。
1人で立ち往生せぬよう、手を貸してやって欲しい」
と、ムラタに向かって深々と頭を下げた。

そうした上で、錆兎、と、今度は自身の息子に声をかける。

「出来過ぎるとわすれがちになるが、お前は知識はあれどまだまだ未熟者だ。
くれぐれも驕って大人を軽んじないように。
平凡に見えても彼らは経験と言うお前は持っていない得難い能力を持っているのだからな」

「はい。すでにムラタにも立場的には部下となってくれている他の大人にも随分と助けられていますから」

と、交わされるこれまで離れていた時間、そしてこれからさらに長くなるであろう離れる時間に対してあまりに短い親子の会話。

それでも互いにどこか尊重し信頼している空気を感じられて、ムラタはなんだかホッとした。


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