前世からずっと番外3_10_襲撃者

「ムラタ、こっちよ、急いで」

杭州の小売店が立ち並ぶ繁華街。
そこでムラタは周りの男どもから羨ましそうな目で見られながら大荷物を抱えて歩いていた。


半年ぶりの寄港で総帥の錆兎は、別船団を任せていた船長の報告を受けたり、ギルドや総督府、交易所に顔を見せたりと、ずっと放置中だった商会の顔としての仕事をこなしていて忙しい。

そんな錆兎に対してシェンを補佐役に提供しつつ、マリアはマリアでもっと小規模な…しかし大規模な場所では入手できないような、噂に紛れた貴重な情報を集めがてら、買い物中だ。


泣く子も黙る杭州の女帝も今はプライベートで可愛い妹のために色々買い物をしているだけだから気軽に接して欲しい…と、それまではなかなか難しかったらしい親しみやすさというものを前面に押し出しつつ、義勇の服や化粧品を買いあさる商店の店員とにこやかに会話を弾ませる。

実際、リー家の華梅総帥を恐れていた店の人々も、妹がいかに可愛いかを語り、その妹が恋している相手との仲を少しでもとりもつために、彼女が最高に愛らしい女性に見える服を揃えてやるのに金に糸目をつけることはしないと豪語するシスコン全開のマリアの姿に、彼女に対する認識を変えつつあった。

なまじ有能すぎて頼りにはなるが冷徹な印象だった彼女のそんな暴走気味なレベルの妹愛は、どうやら微笑ましい印象を与えたらしい。

店員たちはマリアにそれまでからは考えられないほどに親しみを持って接し始めた。


このマリアの義勇に対する態度は本来は便宜上のもののはずなのだが、演技派なのか物珍しさからくる娯楽的な何かなのか、心の底から妹として可愛がっているように見える。

義勇は義勇で最初は緊張していたものの、錆兎曰く、もともと姉のいる弟だったらしく、すぐにマリアに慣れて、それからはもう本当の仲良し美人姉妹そのものだ。


そんな姉妹もどきの買い物のお供は本来なら錆兎がするはずだったのだが、前述のように久しく陸地に足を踏み入れていなかったため、総帥としての仕事が溜まっている。

そこで事情を知っているムラタに白羽の矢が当たったのだ。



最初にその話が来た時に、自分じゃ何かあっても義勇どころか自分の身すら守れないと訴えて思いきり辞退したのだが、

──大丈夫、私は強いから。欲しいのは護衛じゃなくて荷物持ちよ。
と、マリアに一刀両断されて、大荷物を抱えて美人姉妹もどきに付き従う役を承る。

確かに船での修行中に何度かみかけたが、模擬戦闘とはいえ、錆兎を相手にある程度の時間を持たせることができるのはマリアくらいだった。

ムラタなんて近づくか近づかないかくらいの距離で瞬殺される。


だからもうそう言われても仕方ないな…と若干なさけない気分になったのだが、錆兎もそうだが上に立ちなれている人間と言うのは、相手の気持ちにも敏いのだろうか。


そこでマリアから

「別に荷物を持ってついてきてもらえれば誰でもいいというわけじゃないのよ?
単に何かあった時に私の手が荷物で塞がっていると対応できないから私は荷物を持てないし、そこで敵に簡単に寝返るような人間を連れて歩くのは返って危険だから、信頼できる人物に任せたかったの」
などとフォローが入った。


ああ、本当に…。
マリアはよく錆兎のことを弟のような存在と言うが、確かに上に立つ人間としての行動性という意味ではどこか似ている気がする。

とにかくそんなこんなで断り切れずに、ムラタは現在絶賛荷物持ち中なのであった。


地元でかつて知ったるといったところなのだろう。
人ごみのなかでもマリアは義勇の手を引いてすいすいと渡り歩く。
それを大荷物を持ちながらムラタは必死で追った。

それは途中で気づいたことなのだが、時折店に入りながらもマリアはわずかばかりずつ大通りをそれていく。

実に自然に、確実に……


そうしてしばらく渡り歩いた所で、マリアは片手で義勇の腕を、そしてもう片方で初めてムラタの腕を取って、スイッと路地へと入って行った。

建物と建物の間、ムラタくらいの一般体型の成人男子がかろうじて両手を伸ばせるくらいの狭さだ。

そしてそこでグイっと掴んだ腕を引き寄せて、自分の後ろに引き込む。



…え?と思ったのも一瞬で、その後、バラバラっと前方を埋める怪しげな男たちの姿に、ムラタはマリアが自分達を後ろにかばった意図を察した。


しかし相手は男5人。

路地に逃げ込んだのは失敗だったんじゃないだろうか…。
後ろは行き止まりで前方の男たちをなんとかしなければ逃げられない。

今現在、マリアの後ろにムラタ、その後ろに義勇と言った順番で立っているわけなのだが、敵わないまでもここは男の自分が一番前に立つべきなのでは…とムラタは思った。


そこで前に出ようとすると

「動かないっ!」
とバン!と裏拳が飛んでくる。

ちょうど鼻を直撃して、ムラタは痛みに悲鳴をあげたが、それでもまだ可愛いほうだったらしい。


「さすがはリー総帥だ。女だてらに…」
と、近寄ってきた一人の言葉はいきなり容赦なく蹴られた股間の痛みに強引に途切れさせられた。



──~~~っっ!!!!!!!!

声もなく悶絶する男。


──このアマっ!!!
と、後ろに連なる4人の男が駆け寄って来て飛びかかりかけるも、

──ムラタ、少しかがんで。邪魔だから

と、こちらも冷ややかな声が後ろから降って来て、ムラタが慌ててかがむと肩に白い手が置かれ、その手に握られた銃が恐ろしいほどの正確さで男二人の眉間を撃ちぬいた。


へ…???


驚きで言葉を失うと共にサ~ッと青ざめたのは敵だけじゃない。

ムラタも驚いてギギ~っと強張った擬音が聞こえてきそうなぎこちない動きで頭だけわずかに後ろを振り返る。



──ああ見えても雪華もリー家の女よ?護身術の一つも身に着けていないとでも思ったのかしら?

と、前からは凄みのある笑顔で語られる女帝の言葉。


眉間を撃たれて絶命しているのが2人。
股間を蹴り上げられて悶絶中が1人。
その後、勢い止まらず飛び込んで女帝の美脚で肋骨をへし折られたらしく転がっているのが1人。

なので、そのマリアの言葉は、仲間が瞬時に4人やられて青ざめている残りの一人に対するものらしい。


──ねえさま…?

と、何か問うような義勇の声に、マリアの注意がわずかに後ろに向かった時に、その残りの1人は脱兎のごとく逃げ出した。


チャキっとムラタの肩で引き金に指をかける義勇。
マリアが頷くとその銃口からまた火が吹いて最後の一人が地面に倒れ落ちた。


──これで全部みたいね。目撃証言もなし。行きましょう
と、マリアが最終確認をして指示をする。

そこで義勇はようやくムラタの肩から手を下ろして銃をしまい込んだ。



それからすぐ駆けつけて遺体の処理や生け捕りにした2人をロープでグルグル巻きにして運ぶ男たちに、どうやらこの騒動が仕組まれたものであることをようやく悟るムラタ。

迎えの馬車が船ではなく最初にマリアと対面したリー家の建物に向かった時点で、その推測は確定に変わった。

馬車で移動中は本当に何もなかったように購入したコスメや服の話をしているマリア。

ムラタにとっては死を意識するくらいの恐ろしい体験だったのだが、彼女にとっては何でもない日常らしい。


これについて言及してよいのか悪いのかわからないまま黙り込んでいるムラタだったが、リー家の邸宅に着いて以前マリアと対面した部屋のマリアが座っていたデスクに悠然と座っている人物を見た瞬間に一気に力が抜けてへたりこみかけた。



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