地図に従ってたどり着いた先は一見何もない平原だった。
しかし、そこに突然現れる銀色に輝く扉。
そう、何もない平原にいきなり扉が浮かんでいるのである。
扉の後ろにはやはり何もない平原が広がっているので、おそらく前回竹細工を入手した時と同様、扉をくぐれば異界に飛ばされるのだろう。
資格を持つ者…つまり錆兎だけで来いと言われて、同行した3名は青ざめる。
特に義勇は動揺して錆兎の服の袖口をぎゅっとつかんだ。
しかしここまで来て行かないという選択肢もなければ、自分1人でなければ受け入れられないのだろうと悟った錆兎は、その手をそっと引きはがす。
特に義勇は動揺して錆兎の服の袖口をぎゅっとつかんだ。
しかしここまで来て行かないという選択肢もなければ、自分1人でなければ受け入れられないのだろうと悟った錆兎は、その手をそっと引きはがす。
そこで
──錆兎…念のためにこれを…
と、マリアは引き留めはしないものの自分が有事の時のために用意してきた諸々が入った袋を差し出してくるが、錆兎はそれにも
──1人で来いというくらいだ。余分なものは一切持たずに身一つでということなのだろう。
と、首を横に振った。
──い、いやだっ!錆兎っ!!
と、再度縋ろうとする義勇の手は
──錆兎を信じようよ
とムラタが制する。
そして彼は錆兎の方には
──お前の大事な義勇は俺が預かっちゃうからなっ!無事で帰ってこいよっ。
と声をかけた。
──ありがとう。だから、お前が好きなんだ。
と、錆兎はそれに笑って応えると、じゃあ、行ってくる、と、扉の前へと歩を進める。
目の前までくるとひときわ輝いて開く扉。
その向こうはまぶしくてよく見えないが、錆兎はためらうことなく、そのまま足を踏み出した。
──よく来たな、選ばれし者よ…
そこは真っ白な空間だった。
狭いのか広いのかも判断できず、感じられるのは自らが立っている地面だけである。
そして…目の前には大きな存在。
おとぎ話の中でしかお目にかかれないであろう…実際に存在するとは錆兎も思ってもみなかった、いや、これが本当に存在しているのかもわからない、しかし、確かに目の前にいる竜。
気の弱い者ならそれだけで逃げ出すか恐怖で気が触れるかしてしまうかもしれない。
しかし冷静に観察してみれば相手からは敵意も邪気も感じなかった。
さて、何を言われるのだろう…そう思って次の言葉を待っていると、
──汝に証を得る資格を問う。
と、竜の身体がひときわ輝いて、鋭い風が錆兎を襲う。
それに反応して攻撃を避ける錆兎。
その避けた先にもまた風が舞って、それまで錆兎が立っていた場所の地面がえぐれた。
避け続けることは容易とまではいかないが、難しいことではない。
だが、こちらは体力に限りのある人間の身体だ。
あまりにこれが続くと好ましくないな…と、3度目の攻撃を避けた錆兎がそう思い始めた時、ピタリと攻撃が止む。
そして、
──資格者よ…何故、刀を抜かぬ…?
と、問いかけられた。
そう、錆兎は”余分な物”は持たずにきたが、鬼切安綱だけは自らの身を示すものとして肌身離さず持っている。
そして、扉に入る時もとくに咎められずにいたということは、それを帯刀することは竜も理解し認めていたという事なのだろう。
帯刀を許す…ということは、当然抜刀することも想定していたはずだ。
それをここでしないということは、竜にとっても想定の範囲外だったらしい。
しかしここは資格を試される試練の場であるという認識が錆兎にはある。
だからこそ、軽々しい行動は避けるべきだ…と、錆兎はぎりぎりまで抜刀は控えるつもりでいた。
──あなたはおそらく応竜、すなわち四霊であり、神獣なのだろう。神獣に向ける刃はない。
確証はなかったが、こういう形で出現するということは、おそらくただの竜ではなく神獣なのだろう…そう思って、竜の問いにそう答えると、竜は
──善悪を知り実行する賢明な資格者よ…汝は証を得る心は証明した
と、言う。
その言葉で精神性については試練をクリアしたようだということはわかって、錆兎もややホッとした。
しかしそこで試練は終わらないらしい。
続いて、
──次は証を資格無き輩に奪われぬ力を証明せよ…
と、その声が頭に響いた瞬間に、白い空間が黒い空間に変わった。
そして目の前にいた竜が消え、現れたのは人面虎足の異形の獣。
空間が殺気と邪気に包まれ、さすがに錆兎も身震いする。
手は自然に鬼切安綱へ。
人の頭に虎の身体という姿だけでも気を抜くと怖気づいてしまいそうなのに、すさまじい圧を発している獣。
紅く光る眼でギロリとこちらを睨んできたかと思えば、グワァァ!!と吠えて飛びかかってきた。
慌ててよけながらも、こちらの側もその首を狙って振りかざした刀が避けられて、代わりにわずかに切り取られた獣の首元の剛毛が宙に舞う。
ゾワリ、ゾワリと、久々にとてつもない緊張が背を這いあがってきた。
鬼を斬った時の綱もこんな感覚を味わったのだろうか…。
気圧されれば、待つのは死のみ。
警戒はしても怯えるな…
錆兎は、そう、自分に言い聞かせた。
獲物に抵抗され、あまつさえ、例え血の通わぬ毛先だったとしても我が身を傷つけられたことに怒り興奮したのだろう。
敵は咆哮をあげて再度突進してくる。
猪のように長い牙が刺し殺そうと迫ってくるのを刀で受け止め、そのまま力で押されそうになったが、錆兎はなんとか受け流して距離を取った。
人の身としてはずいぶん鍛えたほうだと思うが、あの獣相手だと力技では敵いそうにない。押し負けてしまう。
真っ赤な目がそのことを知っているかのように、にやりと笑みの形を作って不気味に光った。
足も速くあっという間に近づいてくるうえ、おそらく体力だって無限に近くあるのだろう。
接近戦は論外、戦いが長引けば体力も落ちて動きが鈍くなり、刀の状態も悪くなるので不利だ。
勝機があるとすれば、先祖から伝わる名刀の斬れ味と平安時代から何度も転生している間に磨き続けた剣技。
瞬時のそう判断して、敵の3度目の突進をかわしてすぐにクルリと反転。
勢いで駆け抜けた敵が体制を立て直してこちらを向き直らないうちに、即、体制を整えて相手のいる方向へと刀を振り下ろした。
風を切って剣戟が獣の身体を真っ二つに斬り裂く。
斬られた獣の身体は二つに割れてなお、ほんのわずかの距離をそのまま勢いで走り抜け、そして力を失くして、ドゥ!と地面に倒れた。
血に染まる黒い地面…と、思いきや、一瞬はそういう状態にはなったものの、すぐ、獣の身体もそこから流れる血も、黒い砂となってさらさらと宙に消える。
…え?…倒した…のか?
と、乱れた呼吸を整えつつも戸惑う錆兎だったが、それを視認した瞬間、真っ黒だった空間は再度真っ白に色を変えた。
そして目の前には最初の竜。
──資格者よ…汝は証を手にする者としてふさわしいことを見事証明して見せた。受け取れ…
一息つく間もなく空から何かがゆっくりと降って来て、錆兎は慌てて刀を鞘に納めると、両手でそれを受け取った。
…これは……
と、手にした物をマジマジと見る錆兎。
それは4本脚のついた30cmくらいの鼎(神に捧げる供物をいれる容器)だった。
──証は7つ集めて初めて意味を成す。東アジアの証は確かに託した、正しく賢く強き者よ…
最後にそう声がしたかと思えば、白い空間が消え、錆兎は元居た平原に立っていた。
──錆兎…念のためにこれを…
と、マリアは引き留めはしないものの自分が有事の時のために用意してきた諸々が入った袋を差し出してくるが、錆兎はそれにも
──1人で来いというくらいだ。余分なものは一切持たずに身一つでということなのだろう。
と、首を横に振った。
──い、いやだっ!錆兎っ!!
と、再度縋ろうとする義勇の手は
──錆兎を信じようよ
とムラタが制する。
そして彼は錆兎の方には
──お前の大事な義勇は俺が預かっちゃうからなっ!無事で帰ってこいよっ。
と声をかけた。
──ありがとう。だから、お前が好きなんだ。
と、錆兎はそれに笑って応えると、じゃあ、行ってくる、と、扉の前へと歩を進める。
目の前までくるとひときわ輝いて開く扉。
その向こうはまぶしくてよく見えないが、錆兎はためらうことなく、そのまま足を踏み出した。
──よく来たな、選ばれし者よ…
そこは真っ白な空間だった。
狭いのか広いのかも判断できず、感じられるのは自らが立っている地面だけである。
そして…目の前には大きな存在。
おとぎ話の中でしかお目にかかれないであろう…実際に存在するとは錆兎も思ってもみなかった、いや、これが本当に存在しているのかもわからない、しかし、確かに目の前にいる竜。
気の弱い者ならそれだけで逃げ出すか恐怖で気が触れるかしてしまうかもしれない。
しかし冷静に観察してみれば相手からは敵意も邪気も感じなかった。
さて、何を言われるのだろう…そう思って次の言葉を待っていると、
──汝に証を得る資格を問う。
と、竜の身体がひときわ輝いて、鋭い風が錆兎を襲う。
それに反応して攻撃を避ける錆兎。
その避けた先にもまた風が舞って、それまで錆兎が立っていた場所の地面がえぐれた。
避け続けることは容易とまではいかないが、難しいことではない。
だが、こちらは体力に限りのある人間の身体だ。
あまりにこれが続くと好ましくないな…と、3度目の攻撃を避けた錆兎がそう思い始めた時、ピタリと攻撃が止む。
そして、
──資格者よ…何故、刀を抜かぬ…?
と、問いかけられた。
そう、錆兎は”余分な物”は持たずにきたが、鬼切安綱だけは自らの身を示すものとして肌身離さず持っている。
そして、扉に入る時もとくに咎められずにいたということは、それを帯刀することは竜も理解し認めていたという事なのだろう。
帯刀を許す…ということは、当然抜刀することも想定していたはずだ。
それをここでしないということは、竜にとっても想定の範囲外だったらしい。
しかしここは資格を試される試練の場であるという認識が錆兎にはある。
だからこそ、軽々しい行動は避けるべきだ…と、錆兎はぎりぎりまで抜刀は控えるつもりでいた。
──あなたはおそらく応竜、すなわち四霊であり、神獣なのだろう。神獣に向ける刃はない。
確証はなかったが、こういう形で出現するということは、おそらくただの竜ではなく神獣なのだろう…そう思って、竜の問いにそう答えると、竜は
──善悪を知り実行する賢明な資格者よ…汝は証を得る心は証明した
と、言う。
その言葉で精神性については試練をクリアしたようだということはわかって、錆兎もややホッとした。
しかしそこで試練は終わらないらしい。
続いて、
──次は証を資格無き輩に奪われぬ力を証明せよ…
と、その声が頭に響いた瞬間に、白い空間が黒い空間に変わった。
そして目の前にいた竜が消え、現れたのは人面虎足の異形の獣。
空間が殺気と邪気に包まれ、さすがに錆兎も身震いする。
手は自然に鬼切安綱へ。
人の頭に虎の身体という姿だけでも気を抜くと怖気づいてしまいそうなのに、すさまじい圧を発している獣。
紅く光る眼でギロリとこちらを睨んできたかと思えば、グワァァ!!と吠えて飛びかかってきた。
慌ててよけながらも、こちらの側もその首を狙って振りかざした刀が避けられて、代わりにわずかに切り取られた獣の首元の剛毛が宙に舞う。
ゾワリ、ゾワリと、久々にとてつもない緊張が背を這いあがってきた。
鬼を斬った時の綱もこんな感覚を味わったのだろうか…。
気圧されれば、待つのは死のみ。
警戒はしても怯えるな…
錆兎は、そう、自分に言い聞かせた。
獲物に抵抗され、あまつさえ、例え血の通わぬ毛先だったとしても我が身を傷つけられたことに怒り興奮したのだろう。
敵は咆哮をあげて再度突進してくる。
猪のように長い牙が刺し殺そうと迫ってくるのを刀で受け止め、そのまま力で押されそうになったが、錆兎はなんとか受け流して距離を取った。
人の身としてはずいぶん鍛えたほうだと思うが、あの獣相手だと力技では敵いそうにない。押し負けてしまう。
真っ赤な目がそのことを知っているかのように、にやりと笑みの形を作って不気味に光った。
足も速くあっという間に近づいてくるうえ、おそらく体力だって無限に近くあるのだろう。
接近戦は論外、戦いが長引けば体力も落ちて動きが鈍くなり、刀の状態も悪くなるので不利だ。
勝機があるとすれば、先祖から伝わる名刀の斬れ味と平安時代から何度も転生している間に磨き続けた剣技。
瞬時のそう判断して、敵の3度目の突進をかわしてすぐにクルリと反転。
勢いで駆け抜けた敵が体制を立て直してこちらを向き直らないうちに、即、体制を整えて相手のいる方向へと刀を振り下ろした。
風を切って剣戟が獣の身体を真っ二つに斬り裂く。
斬られた獣の身体は二つに割れてなお、ほんのわずかの距離をそのまま勢いで走り抜け、そして力を失くして、ドゥ!と地面に倒れた。
血に染まる黒い地面…と、思いきや、一瞬はそういう状態にはなったものの、すぐ、獣の身体もそこから流れる血も、黒い砂となってさらさらと宙に消える。
…え?…倒した…のか?
と、乱れた呼吸を整えつつも戸惑う錆兎だったが、それを視認した瞬間、真っ黒だった空間は再度真っ白に色を変えた。
そして目の前には最初の竜。
──資格者よ…汝は証を手にする者としてふさわしいことを見事証明して見せた。受け取れ…
一息つく間もなく空から何かがゆっくりと降って来て、錆兎は慌てて刀を鞘に納めると、両手でそれを受け取った。
…これは……
と、手にした物をマジマジと見る錆兎。
それは4本脚のついた30cmくらいの鼎(神に捧げる供物をいれる容器)だった。
──証は7つ集めて初めて意味を成す。東アジアの証は確かに託した、正しく賢く強き者よ…
最後にそう声がしたかと思えば、白い空間が消え、錆兎は元居た平原に立っていた。
──東アジア編 完 ──
壮大な物語ですね。続きをお待ちしてます。
返信削除ありがとうございます。
削除実は続きも何話かは書いてあったんですが、公開するのをすっかり忘れてました😅💦
せっかくなのでそろそろ公開しておきます。