俺達に明日はある?オリジナル
「ずいぶんにぎやかだな。」 そこでさらに茂助の肝を冷やす声が… 「景…虎さ…ん」 今一番会いたくなかった相手の一人が戸口に立っている。 「あ…景虎様」 「きゃあぁ~っ!本物の景虎様だ~!!」 と、あかりと花がほぼ同時に口を開く。 「本物?」 不思議そうに眉を少ししかめる景虎。 「...
(え…) 別空間だった…空気が違う。 想像力豊かな花の脳内では、バックにふわふわと桜の花びらが舞っていた。
(さて、次は…) これで茂助の方の問題は片付いた。つるぎは少し安堵する。
「さて…と、朱雀通りの花屋、ここか」 しばらく後、久々に直衣を着たつるぎは、にぎやかな通りを馬で闊歩していた。 元々名家の出だけあって、その気になれば立ち振る舞いは優雅な上、顔立ちも整っている。 光源氏もかくや、と言った風情の美しい公達(貴族の男)ぶりで、周りの注目を浴びていた。...
「さて…つるぎにも少し休みをやらんとな。 親御にも別れを言いたいだろうしな」 帰る道々秀吉は考え込む。
「今回の戦も見事であった」 秀吉と景虎は戦勝報告に信長の城に来ていた。畏まる秀吉と景虎。 「今回の勝利後、播磨の青松家が王路城を明け渡してきおった。 サル、これはそちに与える。 近日中に居を移しこれを拠点として中国征伐にはげめ」 「ははっ!かしこまってございまする」 秀吉は平伏し...
母屋につくともうみんな集まって、秀吉がくるのを今か今かと待ち構えていた。 そして秀吉が座につくと宴会が始まる。
「さ~る~!いるか?!」 あかりの部屋を出てつるぎはまっすぐ秀吉の離れに向かった。
「信長とは…付き合いは長いのか?」 そういえば何故あかりのような身分の高い貴族の娘がこのような場所にきたのか、全く聞いていなかった事に景虎は気づいた。
行き帰りを含めて5日弱、部屋は毎日きちんと空気を入れ替え、掃除をされていたふしがある。 シン…と静まり返っているのは当たり前の事なのだが、それに妙な違和感を抱く自分がいることを景虎は感じていた。
「おかえりなさいませ」 数日後、無事京都の羽芝邸の門をくぐると、笑顔のあかりの出迎えを受ける。 それぞれに馬を降り、散っていくなか、つるぎはあかりに駆け寄った。 「あかり~!ただいま!」 そのままあかりにぎゅ~っと抱きついた。
普段ダラダラと朝の遅い面々も、この日ばかりは早朝から鎧兜をきちんと着込んでいる。 普段屋敷に常駐していない兵士達もいて、見慣れない顔も多い。 つるぎは身支度を終えると大勢の兵に埋もれながら大将である秀吉を探す。
(…胃が…) 戦場まではあと数時間。 夜も更けたので敵に接近する前に野営をする。 戦闘に備えて休まねば、と思うものの、胃痛で眠れない。 しばらく寝床でゴロゴロしていたが、やがて諦めて景虎は身を起こした。
「つるぎ様…お気をつけて。秀さん守ってあげてくださいね…。」 晴天。 いよいよ待ちに待った初陣だった。 前日からわくわくして眠れず、それでも張り切って鎧をつけたつるぎを迎えたのは涙を目にいっぱいに溜めたあかりだった。
「景虎様、庭の花が綺麗に咲いてましたので、少し摘んで参りました。活けますね」 茶が入った、花が咲いた、珍しい菓子が手に入った、良い香が…etc あかりは何かにつけて景虎の部屋を訪ねてくる。
「あ~…近づいても噛み付かないから大丈夫だ…。」 昼…暗い夜よりはまだ恐怖心も和らぐだろうと、景虎はつるぎと共にあかりをまずは秀吉に引き合わせるべく、双方を自分の離れに呼ぶことにしたわけだが…
「サル!稽古をつけろ!」 縁側にデン!と仁王立ちになるつるぎ。 は~っと大きなため息をつきながら、それでものっそりと秀吉は立ち上がった。
「秀さん、そろそろ起きたか?」 景虎はその足で秀吉の離れに向かった。 「頼む~、トラ。もう少し寝かせてくれぃ」 「んじゃ、体は寝てても良い。頭だけ起きてろ」 景虎は布団をかぶっている秀吉の枕元にどかっと座る。
つるぎの朝は貴族にしては早い。 大抵は貴族は夜遊びに興じ、朝は寝ている。 だがつるぎは剣術に長けた家系に生まれ、さらに稽古をかかさないため、一日は早朝の素振りから始まる。
全体的に毛深い…眉は太く、ともすれば繋がりかねない。ヒゲも濃い。 「サル…だな」 夕食時、秀吉の隣に設けられた席で杯代わりになみなみと酒を注いだどんぶりを傾けながらしみじみと秀吉を観察していたつるぎがぽつりとつぶやいた。